『サウスパーク』シーズン18が面白かった

 久々に『サウスパーク』の続きを観たら去年の9月から12月にかけて放送されたシーズン18のクオリティが高くて面白かった。最近の『サウスパーク』は回によって当たりハズレが激しいことが多かったが、シーズン18は全10回とも当たりな上、日本でもニュースになってる時事ネタが奇跡的に多くて面白く2日間くらいで全部見てしまった。今日は各話の雑感などを。

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第1話『Go Fund Yourself(投資しやがれ!)』

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 4人組とバターズがクラウドファンディングを募って「何もしない」会社を作る話。しかし会社を設立するためには商標登録されてない社名を登録しないといけない、ということでかねてより侮蔑的だとネイティヴ・アメリカンに訴えられていてついに商標を取り消されたNFLチーム「ワシントン・レッドスキンズを社名として利用する。クラウドファンディング会社Kickstarterレッドスキンズをおちょくった回だが、「何もしないで儲ける」カートマンの会社は投資先へ調達された資金の5%を徴収するKickstarterへの皮肉にもなっている。

 

第2話『Gluten Free Ebola(グルテンアウトブレイク)』

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 前回起業でぼろ儲けしようとして失敗した4人組が他の学校の子どもたちを見下していたために嫌われてしまい、信用回復のためにピザパーティを開こうとする。しかし一方で、ピザなどの小麦製品に含まれているたんぱく質グルテンペニスを発射させた上で人を死に追いやる危険物質であることが発覚して町はパニックになる…。

 『ディス・イズ・ジ・エンド』の冒頭でやたらとグルテンギャグを押しててなんでだろう?と思ってたら、当時アメリカではグルテンフリーダイエットなるものが流行ってたのね。カートマンのとんち(と言うにはいつも通りめちゃくちゃだが)でなんとか平和が訪れた町では無事パーティが開かれて、スタンのお父さんランディがロードに扮して歌を披露するが、これが本シーズンの重大な伏線となる。ちなみに本物のロードはこのエピソードを気に入っており、のちに自分でモノマネしている。


Lorde Sings 'Ya, Ya, Ya" South Park Parody ...

 

第3話『The Cissy(異性愛者野郎)』

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 男子便所の大便器がいつも混雑してて使えないことに腹を立てたカートマンは、 実は自分がトランスジンジャーであることを主張し、女子便所を使用しだす。もちろん、トランスジェンダーの事だが当然差別主義者のカートマンにとってそんなことはどーでもよく、女子たちがクレームを入れると「うるせぇ、スジンジャー野郎どもめ!オイラのクリちゃん舐めやがれ!」と挑発。なお、シスジンジャーならぬシスジェンダートランスジェンダーの対義語。

 一方で、ランディも自分のもう一つの一面について悩みを抱えていた。19歳のカリスマシンガーとして絶大な支持を受けていたロードの正体はランディだったのだ!ってこれは前回からの続き。今回のシーズンは一話完結ではなく、すべてのエピソードが繋がっているのが特徴。ちなみに今回のエピソードのランディの場面は『ブレイキング・バッド』のパロディ。

  

第4話『Handicar(障害車)』

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  来年のサマーキャンプに備えて資金を集める特別支援教室の子供たちだったが、その中でもティミーは障害者(Handicar)なる交通サービスを始め$2000もの利益を荒稼ぎする。今回のトピックのはUberLyftなどの配車サービスアプリ。Uberは昨年から日本でもサービスを開始したそう*1。サマーキャンプに行きたくないネイサンとミンジー(久々の登場!)はタクシー組合や配車サービスアプリ会社、そしてマシュー・マコノヒーと結託してティミーを潰そうとし、クライマックスはチキチキマシン猛レースとなる!この再現度が驚くほど高く、ブラック魔王とケンケンも登場。


Southpark vs. Original - Wacky Races Intro - YouTube

 

第5話『The Magic Bush(魅惑の茂み)』

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 カートマンがバターズからブン取ったスティーブン(バターズのお父さん)のドローンで、お着替え中のクレイグのママを盗撮してしまったことから大騒動に発展する。ちょっと騒ぎすぎじゃないかってくらいまさにドローンは今日本でホットな話題だが、アメリカでもバージニア州のイベントでドローンが墜落して観客が怪我をする事件が起きたりプライバシーの観点からもその賛否が問われていた。こういった最新技術に対して毎回『サウスパーク』が秀逸なのは、その問題点を浮き彫りにしつつそれに対して過剰に反応する人々までをも徹底的にバカにする双方からの視点を忘れない点だ。

 

第6話『Freemium Isn't Free(フリーミウムはタダじゃない)』

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 スタンがカナダ製の課金ゲームアプリの中毒になってしまうが、実はそのアプリはカナダ悪魔(なんだそりゃ)の陰謀だった!という久々にカナダが登場する話。3月に任天堂DeNAが提携を発表して話題となったが、世界的にもゲーム市場の主な戦場はスマホに移りつつある。いつも通りカナダを下品で知性の欠片もない国として描いている一方で、今回は人々が無料ゲームに中毒になっていく仕組みも見事に暴く。

 つまり、①単純なゲーム性を土台②プレーヤーが心地よくなるようなSEや視覚効果、セリフを使って ③ゲーム内通貨を使うように洗脳④そのゲーム内通貨を現実のお金と交換する手段を提供する。ただ、僕のように世の中には課金を嫌う人が大勢いるのも事実だ。しかし、アプリ会社はハナからそういった人間から利益をあげることは期待しておらず、99%の人間がハマらなくてもわずか1%の人間から莫大な金額を搾取ることを目的としているのだ。

 さらにこのエピソードは一歩進めて、実はこのように中毒を利用した産業は今に始まったことではなく、古くはアルコール業界もやってきたことだと主張する。実際「お前はおじいちゃんに似てギャンブル依存なんだ!」と嘆くランディの片手には常にグルテンフリーのビールやワインが握られているのが何とも皮肉である。

 

第7話『Grounded Vindaloop(外出禁止・ビンダループ)』

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 カートマンは手作りのオキュラス・リフトを使い、おバカなバターズをいつものように意地の悪いイタズラで嵌めて遊んでいた。しかしカートマンのイタズラを本当に仮想現実だと錯覚したバターズは売春婦に喧嘩を売り大怪我を負うことになる。ところが、このイタズラ自体実はカートマンがオキュラス・リフトを使って観ている仮想現実で…

 本シーズン屈指の野心作で一回観ただけじゃとても把握できないくらい難解だが、SFとして観ても驚くほど出来がいい傑作エピソード。フィリップ・K・ディック的なアイデンティティ・クライシスや仮想現実を扱っている。笑っちゃうのは4人組がオキュラス・リフトのカスタマー・サービス(インド人)に電話する場面。「ヘッドセットに少々問題が発覚したので、現在全ての製品をトータル・リコール(全回収)してるんですよ!

 

第8話『Cock Magic(闘鶏・ザ・ギャザリング)』

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 カードゲームのマジック・ザ・ギャザリングに夢中になる4人(ケニーはかなりの実力者)だったが、普通のマジック・ザ・ギャザリングじゃ満足できなくなってしまった。そんな折に鶏同士にカードで対決させるアングラ闘技、コック・マジックを教えてもらう。一方子供たちの間でコック・マジックが流行ってることを知ったランディは、大学時代に鳴らしたコック・マジック(文字通りペニスを使ったマジック)の練習を再開するのであった。とにかくランディのコック・マジックが抱腹絶倒で、よくネタも尽きずこんなバカなもん思いつき続けるなと惚れ惚れしてしまった。


[WATCH] Randy Marsh Cock Magic || South Park ...

 

第9話『#REHASH(#二番煎じ)』と第10話『#HappyHolograms(#ホログラムホリデー)』

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 今シーズン最後の2話は連作。カイルが意気揚々と『コール・オブ・デューティー』の新作を買ってきても弟のアイクは興味を示さない。なぜならアイクはゲーム実況者のPewdiepieに夢中で、もはやゲームを直接プレイすることは老人のやることだと友達とバカにするようになってしまったからだ。最近の若者たち(というか幼稚園児)にカイルとスタンは嘆くが、逆にカートマンはYoutuberになればベラベラ喋るだけで簡単に儲けられることを知り、実況者を実況するチャンネルを開設。一方でロード(ランディ)は嫌々ながらもプロデューサー命令で出演したライブでクリトリスを弄ってしまい大炎上する。同ライブではホログラムでマイケル・ジャクソンを出演させていたが、機材トラブルによりマイケルが脱走。死人を蘇らせてまで話題を呼ぶ音楽業界の横柄さに憤りを覚えるロード(何度も言うがランディ)だが、悪徳プロデューサーはさらにホログラムでロードのコピーやニルヴァーナなどの故人のコピーを次々に作り出し、史上最大のクリスマス特番を制作してテレビの覇権を取り戻そうと画策するのであった。

 と、このようにファイナルエピソードらしく今シーズンの要素てんこ盛りで豪華な二本立てで、ずっとテレビで活躍してきたトレイ・パーカーとマット・ストーンのメディアへの思いがこもった回となった。ただトレイとマットはYoutuberをバカにするのではなく、本物のPewdiepieを出演させるなどちゃんとネットで起きている新しいムーブメントに対して理解を示している。*2ちなみにPewdiepieはこのエピソードで知ったが、今年日本に来たことが話題になるなど世界的なYoutuberなんですね。結構イケメン。


I WAS ON SOUTH PARK! - YouTube

 

 今回みたいにテレビ番組の感想は今後もやるかも。めっちゃ疲れるけど。

*1:https://www.uber.com/ja/cities/tokyo

*2:ただ僕にはやっぱりイマイチヒカキンなどのYoutuberの面白さが分からない…。