トレイとマットの『エヴァンゲリオン』!?/『South ParQ Vaccination Special』感想

 世間では『シン・エヴァンゲリオン:||』が盛り上がっていると聞くが、当ブログでアニメといえば『サウスパーク』!コロナ禍でプロダクションがステイホーム体制となってしまったため、シーズン24の製作が中々進んでいないのが現状だが、昨年の『Pandemic  Special』以来の1時間特番『Vaccination Special』が放映!これが『サウスパーク』史上最も攻めたエピソードで…!?

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  遂に待望の新型コロナウイルスのワクチン接種がサウスパークでも始まった!薬局チェーンのウォルグリーンでは今日も長蛇の列ができているが、屈強なセキュリティが中に入れてくれない。一方で、重症化リスクが高い老人たちは優先度が高くて簡単に通してもらえる。まるでクラブの入り口のような様相で、指をくわえて待っている聴衆たちに老人たちは「あたしゃ79歳だよ、マヌケどもが!」と中指を立てて店に入っていく。サウスパークの町は、すっかりワクチン接種を済ませた老人たちが跋扈する町となってしまった。

 

 一方、ようやく対面授業が再開したサウスパーク小学校。スタンとカイルが手を洗っているところ、カートマンが大事な話があると二人をトイレに呼び出す。中にはケニーもいて、カートマンが言うにはこのパンデミックのせいで、ケニーが4人の友情が壊れてしまうのではないかと心配しているそう。今一度4人のブローシップ(兄弟愛)を強固なものにさせようと、カートマンとケニーは食堂から大量のケチャップを盗み、担任のネルソン先生の椅子に塗りたくって生理に見せかけるイタズラを仕込んだのだという。

 

 全くなんでそれで友情が回復できるのか、問いただすのもバカバカしかったのでスルーするスタンとカイルだったが、イタズラは大成功。白いスカートが真っ赤に染まったネルソン先生が大焦りすると、カートマンが「ギャハハハ!生理が来るなんて汚い先公だな!」と写真を撮りだして、ネルソン先生は大激怒。「教員は政府からもエッセンシャル・ワーカーとみなされず、ワクチンすらもらえなくて毎日命の危機を晒してまで学校に来てるのに、あんた達の酷いイタズラの犠牲になるなんてもう耐えられない!」とネルソン先生は学校を辞めてしまう。

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 こうして担任の空きができたクラスにやってきたのが、大統領職を辞めたあの男、ギャリソン先生だ。ウキウキでサウスパークに降り立つギャリソン先生だったが、この4年間のアメリカをめちゃくちゃにした男の登場に、サウスパーク中の住民が凍り付く。当然、戻ってきたギャリソン先生に子供たちもガッカリし、ネルソン先生を追いやった4人組はクラス中から嫌われてしまう。「僕は何もやってないだろ!」とカイルは憤慨するが「オイラが4人でやったと言いふらしたからな。お前はオイラとケニーを止めなかった。沈黙は暴力だよ、カイル!」とこういう時だけ嫌な正論を言うカートマン。

 

 ネルソン先生だけでなく、教員にワクチンが優先的に配られないことをサウスパーク小学校中の先生が怒っていた。スクールカウンセラーのマッケイ先生も破れかぶれに辞めようとしていたところ、4人組が相談にやってくる。「もうお前らクソガキどものくだらない相談なんか受けたくない!私は50歳だ、いつコロナで死んでもおかしくないんだ、ンケーイ!?」とマッケイ先生は断るが、「何とかネルソン先生を学校に連れ戻すことはできませんか?」と4人が食い下がると、「一つだけ方法がある」とマッケイ先生。「この町にとある施設がある。入ることがとても難しく厳重な場所だ。ウォルグリーンという施設から、学校の教員分のワクチンを手に入れてきなさい。そうしたらネルソン先生も戻ってくるだろう」こうしてマッケイ先生からミッションを受けた4人組は、ウォルグリーンから新型コロナウイルスのワクチンを盗み出す計画を立てるのであった。

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 さて、久しぶりに町に戻ってきたギャリソン先生がスーパーでショッピングしていると、周囲の視線があまりにも冷たいことに気付く。「きっと私がゲイだからジロジロ見てるんでしょ!アンタラもとっととウォーク*1しなさい!」とどの口が言ってるんだか分からない見当違いも甚だしいセリフを吐く。そんなギャリソン先生に敬意の眼差しで近づいてくる一家がいた。ホワイト家である。

 

 「私はあなたの味方です!私たちホワイトは全員あなたの味方ですよ!」と一家の主ボブが言うと、ギャリソン先生は「アタシはただショッピングに来てるだけなんだけど」と戸惑う。それでもボブが「それで、私たちはどうしたらいいんでしょう?私はQアノンのフォロワーでして、毎日インターネットで待機しています。そろそろワクチン接種が始まって、人々にマイクロチップが埋め込まれようとしているんです。どうしたらいんでしょう?皆あなたの言葉を待っています!」と食い下がるので、ウザったくなったギャリソン先生は「言葉が欲しいのか!?まともな人生を歩めよ、馬鹿野郎!テメエのチンコの穴からクソを吸い出しやがれ!*2」と罵声を浴びせて去ってしまう。しかし、ホワイト家は「チンコの穴からクソを吸い出せ…一体どういう意味なのだろう?」とまるでありがたいお言葉のように受け取ってしまう。

 

 その晩、ホワイト家の地下室ではQアノンの会合が開かれていた。DCの連邦議事堂襲撃のニュースで散々見たQアノンの連中が集まっているが、すっかり社会の敗北者となってしまったため、意気消沈してしまっていた。「落ち込むでない、諸君よ!今日私は”選ばれし者”と出会ったのだ!彼は我々に言葉を授けてくださった、『チンコの穴からクソを吸い出せ』だ!」ボブはホワイトボードに言葉を羅列し、好き勝手都合よく解釈した結果、「Qの教えを子供たちに広めよ」というメッセージであると受け取った。かくして、教員が次々にやめているサウスパークの子供たちに、Qの教えを広め説く家庭教師サービス「チューターノン*3」を始めるのであった!

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 個人的な所感でギャグとしての強烈さは『Pandemic Special』の方が大きかったが、今回もやはり「流石『サウスパーク』」と言わざるを得ないほど相変わらず巧みな風刺に満ちたエピソードだった。

 

 まず、冒頭の生理のくだりはあまりにも酷すぎて流石に引いたが、後半カートマン自らが(言わされているとはいえ)ネルソン先生に電話をしハッキリと「男が寄ってたかって集まって生理を馬鹿にするのは性差別的であったし、程度が低いジョークだった」と謝罪する場面は印象に残った。近年の『サウスパーク』はPCやウォクカルチャーの隆盛とどう向き合うか試行錯誤を重ねていた印象はあったけれど、カートマンがやった行動の質の悪さに作り手たち自身が自覚的であるのは重要なことだ。

 

 つまり、カートマンを意識的に最悪なキャラクターとして描くことで、現実社会で差別行為を行う人間も同等に嘲笑の対象であることを伝えているのだ。というか、昔からカートマンの役割は変わらないが、この昨今の情勢で改めて態度で示すトレイとマットはやはりカッコいい。今日ちょうどスッキリでアイヌへの差別ギャグがあって炎上したけれど、コメディの役割がなんたるかを日本の芸人たちももう少し勉強してほしい。

 

 『Vaccination Special』ということで、当然ワクチンが主題の一つとなった。劇中内ではワクチンが入手困難である状況をネタにしていたが、それよりも驚いたのはアメリカではワクチンがウォルグリーンで打ててもらえるレベルで簡易だということだ。ウォルグリーンは日本でいえばマツキヨくらいのドラッグストアチェーンだと思ってもらえればいい。教員はワクチン接種の優先順位が高くない、という事実も意外だったが、まあ、サウスパーク中の住民が文句を言ったところで、正直我々日本国民にとっては隣の芝が青く見える話だ…。

 

 さて、今回のスペシャルが発表された時からファンが期待していた「Q」の者たちの描写について、我々の期待値を上回る弄りっぷりだったと言えよう。トレイとマットは『サウスパーク』s9e12「Trapped in the Closet」で、サイエントロジー教会の教義を丁寧に正確に描写することで、サイエントロジーが如何にバカバカしいものであるかを見せていたが、今回も全く同じ手法を採用している。


 Qアノンが信じてやまない「ハリウッドエリートによる児童大量誘拐」を懇切丁寧にビジュアル化するが、これを大の大人が大真面目に信じているのはあまりにもアホとしか言いようがなくて笑いを禁じ得ない。「我こそはJアノン」とか誇らしげに言ってしまう人こそ真っ先に見て色々と目を覚ましてほしいところ*4だが、Newsweekの記事*5によると実際のQアノンたちは「自分たちの思想が世間に広まった!」と大喜びをしているそう…。サウスパーク』がヤオイを馬鹿にするエピソードを作ったら腐女子歓喜したという逸話があるけれど、こっちはそんな可愛らしいものではなくて、馬鹿の底なしっぷりにはクラクラしてしまった。劇中内で「2021年は2020年と変わりそうにない」というセリフがあるが、残念ながらそのようである。

 

 ところで、Twitterや冒頭で『エヴァンゲリオン』と冗談で比較したけれど、図らずも今回のエピソードはエヴァ』としか言いようがないトンデモない展開が待ち受けている!この衝撃は是非ご自身の目で確かめてほしいが、何故か公式ホームページでは今回のエピソードが現在日本から視聴することができない…。VPNを通せば見ることはできるが、早くこの問題を解決してほしいものである。

southpark.cc.com

 

 

 

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  • 作者:内藤 陽介
  • 発売日: 2020/07/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

*1:wok。社会問題に自覚的になること。Awoke(目覚めた)からとられている

*2:原語だと"Blow shit out of your dickhole!" 相変わらず天才的過ぎる言い回しに惚れ惚れした

*3:チューターとQアノンの造語

*4:もう一つ残念なのは、Jアノンの人たちは恐ろしく英語ができないことだ

*5:

 

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