人種差別は最早滑稽

 ツイッターにも書いた話だが、こっちでも。NYの会社に勤めていた頃の元同僚が今日本で学生をやっている。彼女には『ザ・ルーム』のアレコレを手伝って貰う事が多いので、最近ちょくちょく会っているが、昨日も打ち合わせの終わりに渋谷の横丁で飲んでいた。なお、彼女はお母さんが日本人、お父さんがイスラエル人のハーフで日本語も喋れるが、母国語が英語で英語の方が話しやすいので、僕は彼女と話すときはいつも英語で話す。昨日も最初はそうだった。

 

 横丁のお店というのはどこもそうだけど狭いお店なので、誰かが入ってくると全員が動かないといけない。特に我々は入口のすぐの席に座っていたので尚更だ。しばらくすると酔っ払ったおっさんが入って来た。僕たちの会話が英語だったのと、日本人離れした元同僚の顔に恐縮したのか、おっさんは「エ、エクスキューズ・ミー」と会釈して来た。すると、その子は「あ、すみません」と日本語で返し、おっさんは面食らった表情を浮かべた。

 

 「え、すごいですね、日本語話せるんですね!」とおっさんは嬉しそうにいうので、「彼女の母親は日本人なんですよ」と教えてあげると、「へー、外人なのに凄いですね!」と返して来て今度は僕が面食らった。ちなみに彼女は二重国籍だけどガッツリ日本国籍を持っているし、お母さんとの会話も日本語だ。

 

 とはいえ、酔っ払ったおっさんの戯言にいちいち腹を立てるほどの狭量でもなく、おっさんもデリカシーに欠いている以外は陽気で楽しいおっさんだったので、僕たちに興味を持ったおっさんを会話に入れてあげることにした。なんなら正直「二人とも若いのにバイリンガルで偉いねぇ」「NYで仕事してたなんて優秀だねぇ」なんて褒めてくれるので気分は悪くなかった。

 

 しかし、酒もだいぶ進んだ頃、おっさんは彼女の顔をさして「全然日本人(の要素)が見えないね」と言い出した。この手のことは言われ慣れてるのであろうか、彼女が勤めて笑顔で「そうですね、よく言われるんですよね、あはは」と返すと、おっさんは「白人は優勢遺伝だから黄色人種は勝てないのよ」とかおったまげた事を言い始めた。あまりの事に「いやー、それはちょっとどうなんすかね……」*1とお茶を濁したら「でもこれは科学的事実だからね」とトドメの一言。

 

 普通にアウトな発言なのは言うまでもないが、仮にもユダヤ人の彼女の前でナチスドイツが提唱したインチキ優生学を持ち出したおっさんに肝を冷やした。なお、僕はおっさんから名刺をもらったが、国防関連のアレな方であった。僕はそっち関係の人が全員アレだとは思わないけれども、「俺には愛国心しかないのよ、ガハハ」とおっさんはそのステレオタイプを助長するのであった。というか、なぜこのおっさんはアッチの人なのに白人様の遺伝子にコンプレックスを抱いているのだろうか。

 

 とはいうものの、僕らはおっさんにビールを奢ってもらったので、建前だけの挨拶をして店を出た。帰り道我々は堪えきれずに腹を抱えて笑った。おっさんに唖然とはしたが、怒るにもあまりにもアホらしくて笑うしかなかった。

 

 「NYでは例え差別的な考えの人がいても公共の場では口に出さないし、ああいう人たちの集まりに積極的に行かないとまず聞くことはない。今の時代にあんな話が聞けるのはある意味新鮮で面白い」とはその子の談。彼女の器のデカさには感心するが、レイシストの方々に知っていただきたいのは、君たちの無根拠な差別的発言は最早真剣にすら捉えられていなくて、嘲笑の対象でしかないからね!これから差別するときは国際社会や現代社会において自分が笑い者なんだと言う事をキチンと理解してから差別してください!

 

 なお、そのおっさんには僕の名刺と『ザ・ルーム』のチラシを渡してしまったんだな。まあ、『ザ・ルーム』にお金を落としていってくれたら許してやるよ!

 

ジャンゴ 繋がれざる者 (字幕版)

ジャンゴ 繋がれざる者 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

*1:常日頃、僕は差別的発言には絶対に一言物申してやる!と心がけていて、だからデリカシーのない父親とはよく喧嘩をするのだが、しかし実際に家の外でこういう発言を恥ずかしげもなく堂々とする人と対面したら、唖然とするしかない、というのが今回わかった。僕はおっさんに敗北してしまった。