Twitterでも書いた話ですが、もう一度。『マンダロリアン』シーズン2は『スター・ウォーズ』のスピンオフとしてだけでなく、昨年のエンターテイメントの中でも最も優れていたコンテンツであることは疑いようの余地もありませんが、実は今その『マンダロリアン』界隈でアメリカではちょっとした炎上騒ぎになっています。というのも、劇中で元共和国軍のショックトルーパー キャラ・デューンを演じたジーナ・カラーノの言動がすこし、というかかなり物議を醸しているからです。
事の発端はシーズン2が絶賛放映中だった昨年11月、ジーナ・カラーノがこんなツイートをした事から始まります。
— Gina Carano 🕯 (@ginacarano) 2020年11月15日
これは反マスクを唱えるミームを引用したもので、このように書かれています。
民主党の為政者達はマスクだけでなく、何が怒っているか見させないために、今や目隠しをすることも奨励している。
アンチマスクどころかアンチ民主党的なミームからお察しできる通り、彼女はプロ共和党なのです。ジーナ・カラーノは過去にもトランスジェンダーの人を揶揄したり、、トランプが主張する「不正選挙」を支持するツイートをしたりしてファンの間で批判されていました。
We need to clean up the election process so we are not left feeling the way we do today.
— Gina Carano 🕯 (@ginacarano) 2020年11月5日
Put laws in place that protect us against voter fraud.
Investigate every state.
Film the counting.
Flush out the fake votes.
Require ID.
Make Voter Fraud end in 2020.
Fix the system. 🇺🇸
なのでもともとリベラルな視聴者からは人気のある役者ではありませんでしたが、この反マスクのツイートを契機に#FireGinaCarano(ジーナ・カラーノをクビに!)運動が起きました。
しかし『マンダロリアン 』シーズン2もなんとか無事に放送を終え、シリーズも高評価だったことで、いつしかこの運動は下火に向かいました。が、それを再熱させたのが先週のトランプ支持者達によるワシントンDCでの暴動で、彼女が暴動者を擁護していると捉えられかねないツイートを「いいね」していたことが発覚し、ファン達はまた#FireGinaCaranoを無視できないくらい声高に主張するようになりました。
そうした中で、噂話程度なのでどこまで本気にしていいかわかりませんが、実際にディズニー/ルーカスフィルムがジーナ・カラーノをクビにしようと検討していた所、ジョン・ファヴローが止めた、という話も出て来てビックリしました。
今回の騒ぎがここまで大きくなったのは、やはり『マンダロリアン』でカラーノが演じたキャラ・デューンが非常にカリスマ性のあるキャラクターだったことに起因しているでしょう。主人公のマンドーは時にぶっ飛ばされたして(いい意味で)ヘッポコであるのに対し、正義のために男達に負けじと大暴れするデューンはマコ・モリやフュリオサと同様、フェミニスト達から支持されていたキャラクターだったので、彼女を演じるカラーノの政治的立場にファン達が余計にガッカリしたのでしょう。
これに関して僕は相反する二つの考えを持っています。まず、薬物で逮捕された役者が出演した作品に罪はないように、カラーノの政治的立場がどうあれ、彼女が作り出したキャラ・デューンは類を見ない素晴らしいキャラクターだと思います。少なくとも彼女は(今のところ)非人道的な発言をしているわけではないので、番組を降板させられる正当な理由がありません。彼女が「リベラルでない」*1から追い出すのであれば、それはリベラルが標榜する「多様性」からは程遠い考え方です。そして、本当にディズニーがジーナ・カラーノを降板させることを検討していたとするのならば、彼らはジェームズ・ガンからの一件から何も学んでいないと思います。
ですが一方で。じゃあ、だからといって発言の自由の元、何を言ってもいいかと言われると、そりゃそんなはずもなく、社会的影響力のある彼女がこのパンデミック下で反マスクを主張することは間接的であるにしろ人命を危険に晒していることは変わりはないです。また、陰謀論めいた不正選挙説やワシントンの暴動への支持を匂わせたり、何よりフェミニストに人気なはずのキャラクターを演じている役者が、「女性のアソコを掴め!」とか言っている大統領を支持するのは、我々がスクリーンで知っている正義感の強いキャラとは確かにイメージがあまりにも違いすぎるので、ファンがショックを受けるのも無理はないと思います。*2
「作品と作り手は切り分けて考えるべき」とはよく言いますし、僕も基本的には同意したいところですが、それはどこまで有効であるべきなのか、大変悩ましく思います。ただ、これは推測ですが、ジーナ・カラーノの為人は素晴らしい人ではあるのでしょう、共演者のペドロ・パスカルやケイティー・サッコフ、ミン・ナなどは(政治的立場は別にしても)彼女への擁護を表明しています。
外野がアレコレいうのは簡単なのですが、真に彼女を理解しているのは彼女の周りにいる友人達のみです。自身もチリ出身でトランプに批判的なペドロ・パスカルの投稿から我々は何を学ぶべきなのか。SNSにより現代社会がいかに簡単に白黒分断させられてしまったか、色々と考えさせられる事案でありました。