クロエ・G・モレッツがナメた男性客をグレムリンもろともぶん殴ってくる/『シャドウ・イン・クラウド』★★★

 第二次世界大戦を題材にしたモンスター映画『シャドウ・イン・クラウド』を鑑賞。監督はロザンヌ・リャン、脚本はマックス・ランディスが書いたものをリャンがリライト。主演はクロエ・グレース・モレッツ、共演にニック・ロビンソン、カラン・マルヴェイら。


 いやー、たまげるくらい面白かった。戦争映画に何やらエイリアンが出てくるらしい?という前知識くらいしかなかったのだが、蓋を開けてみると第二次世界大戦にB級モンスター映画を掛け合わせただけでなく、密室スリラーにもなっていて、さらにネオンカラーを基調とした照明にシンセサイザーを鳴らすサントラが80s感も高めてくれる。あれよこれよも詰め込んだジャンル映画として成立しているおかげで、バカバカしい展開ですら笑って許せてしまう。

 

 本作が白眉だったのが、単なるおバカ映画にとどまらず、ウーマンエンパワーメントを描いた映画でもあったことだ。映画を見る前は「クロエ・グレース・モレッツが主演の第二次世界大戦映画?それはちょっと可愛すぎるんじゃないの?」などと思わず思ってしまっていたが、まさにそういった僕のように無意識に有害な偏見をクロエがぶん殴ってくるような映画であり、身につまされる思いをした。

 

 なにせ、クロエさんが居合わせる男たちのセクハラ発言が酷い。クロエさんが閉じ込まれてしまった銃座の閉塞感も相待って、典型的な有害な男らしさに窮屈さを感じた。そして、あまり世間で存在が知られていないことが証左であるように、これは実際に当時の(あるいは現代も)WAAFや婦人陸軍部隊がいかに男中心の軍部でナメられていたか、ということだろう。

 

 本作にパニックホラーとしての側面も与えられていたのは、差別が理不尽なだけでなく、プロフェッショナルな仕事をこなす上で単純に障害でしかない、ということも描いているからだろう。だからこそ、我々観客は男たちによって屈辱を与えられ続けたクロエが、我慢の限界を超えて「銃座を飛び出す」という一種の非現実的な描写に心から快哉を叫ぶのだ。

 

 ただ、それを踏まえた上で一点だけ瑕疵を挙げるとするならば、本作の脚本を最初に手がけていたのが、性的搾取で糾弾されたマックス・ランディスが手がけたことだ。一応、リライトはロザンヌ・リャンが行ってはいるが…モヤモヤは止まない。つくづく、映画を見るのが難しい時代になったものだ。