スリラー映画『FALL/フォール』を鑑賞。監督はスコット・マン、マンは脚本をジョナサン・フランクと共に執筆。出演は『シャザム!』のグレイス・キャロライン・カリー、『ハロウィン』のヴァージニア・ガードナーら。
スコット・マン監督は前作『ファイナル・スコア』の撮影中、スタッフたちとこんな会話をした「なんで人間は皆、高いところや落下することへの恐怖心があるんだろうか?」ちょうどその時、スタジアムの高所で撮影をしていて、オフの時間に何気なくも普遍的な雑談を交わしていて、思いついたそうだ。「これは映画にすると面白い装置になるんじゃないか?」
つまり高所と落下への恐怖心を追求するために『FALL/フォール』は製作された。ドラマ部分の余計な贅肉は削ぎ落とされ、全編ヒリつく緊張感に僕は107分間終始「タマヒュン」していた。下品な表現で申し訳ないが、馬鹿正直に書くと「タマヒュン*1」以上にピッタリの言葉が見つからない。どんなホラー映画もこんなに長時間、直接生理現象をもたらす映画はこれまでなかった。
究極の落下表現を実現するために、様々な手法が検討された。『FALL』の鉄塔のモデルはカリフォルニアにあるKXTV/KOVRタワーだが、当然安全面や撮影の合理性の観点から実物大のタワーは使えないので、様々な手法が検討された。グリーンバックや『マンダロリアン』でお馴染みとなったLEDスクリーンも含むが、まず第一に悲しいことに現代ハリウッドにおいてIPもない無名の作品が大金をかけてスタジオを抑えるのは不可能だった。
しかし第二に、スコット・マンとプロデューサー達はリアリズムを追求したかったので、なるべくプラティカル・エフェクトに頼って撮影することにした。結果、カリフォルニアで見つけた山の上に100フィート(≒30.48m)の鉄塔の先端部分を模したセットを作り、擬似的に地上からの高低差2000フィートもの高さでの撮影を可能にしたのだ。つまり、『FALL/フォール』を見ていてヒリヒリ感じる緊迫感は、実際の高さをカメラに捉えたからこそ生まれた生々しさだったのである。
余談だが、撮影中、高所故に雨や衣装が溶けるほどの暑さ、雷や嵐などで時にはセットを吹き飛ばされる苦労に見舞われたそうだ。時には羽蟻の大群に襲われるなど信じがたい事件も起きたりして、スコット・マンは『FALL』撮影時の困難を「聖書的」と表現しているが、その甲斐あっての映像だったと言えよう。
スコット・マンとそのクルーは、『FALL/フォール』で一種の映像表現の極致に到達したと言えるが、僕がもう一つ本作で気に入っているのは脚本の妙である。「YouTuberが600mの鉄塔に登ったら取り残されてしまった」という一文で済まされるプロットはとてつもなくバカっぽく聞こえるが、そんなバカな話も鑑賞中は納得して観れたし、キャラクターに共感しながら観れるのは優れた脚本のお陰である。途中ズルいドンデン返しも用意されているが、伏線の用意とその回収も丁寧で好感が持てる。ただ、こんなバカな話に無理やり人生に関するテーマを結びつけようとするオチ*2には笑ってしまったが。
ひとつ残念なのは、本作は高所の恐怖を最大限まで引き出すためにIMAX対応のフォーマットで撮影されたが、本邦においてはIMAXでの公開が実現していないので、この究極の映像体験を得られることができなかった。が、『FALL』のあまりにもリアルな恐怖を考えると、IMAXで公開されたなかったのは実は良かったのかもしれない…小便をもらしてしまうからね!
なお、本記事を執筆する上で、参考にした引用元はこちら↓