カチンコ切るのは誰?

 僕はカチンコが苦手だ。カチンコとは編集で映像と音をシンクロしやすくするために、現場でカメラが回った後に「カッチン」と鳴らすアレである。

 

 去年短編映画の現場に助監督として参加し、見様見真似でカチンコ切ったらスタッフに「遅い!」と怒鳴られた。 僕はまともに映画学校も行っていないし、日本の現場で助監督として経験を積んでいないので、カチンコを教えてもらってもいなければ知らなかった。フィルム時代の名残で、高価なフィルムがもったいないのでカチンコはなるべく1フレーム以内に収まるように切り、素早く撤収するのが大事だそうだ。*1

 

 その現場自体辛かったし、心を折られるくらい嫌な思い出しかないので「もう邦画の現場に行くもんか!」と固く決心した瞬間であった。以来、僕はADとして参加する時はなるべくバイリンガルの案件しか受けないようにしていて、あれからカチンコを扱っていない。実は、日本と海外ではカチンコを切るスタッフが違う。日本ではサードまたはフォース助監督という演出部の一員が切っているが、海外では2nd ACというカメラアシスタントが切っているのだ。

 

 英語の映像になってしまうが、2nd ACの役割は以下に詳しい。カチンコを切るほか、機材の積み下ろしやセッティング、映像メディアやバッテリーの管理、役者の立ち位置をバミったりする仕事で、これもまた日本の「セカンド撮影助手」とは大きく役割が違う。

 

 なんで急にこんな話を書き始めたかというと、実は先日ADとして参加した現場で、撮影規模が小さくて2ndACがコールシート*2に書かれていなかった。「ということは、僕がカチンコ切るの…?」と緊張し、自前のクラッパーボードまで持って行って撮影監督(DP)に聞いたら、この現場ではタイムコードで音声を読み込んでいるので、カチンコはいらない*3とのこと。思わず安堵のため息をついたら、意地悪そうに笑うプロデューサーとDPが「せっかくだし、カチンコ切る?」と勧めてきた。いや、切らないよ!と無茶振りを断れるのもいい現場の印だね!

*1:よくよく考えたら今の時代デジタルなので、遅いからって怒鳴るのはかなり理不尽である

*2:

 

*3:よくハリウッド映画のメイキングなどでもデジタル時計が流れるカチンコを見かけると思うが、あれも実はカチンコを切ることでスイッチとなってタイムコードを記録しているのだ。つまり、今は映像と音声を同期するためというより、タイムコードを記録するためにカチンコを切っている。もうひとつついでに言うと、日本のカチンコは黒板でできていてダサい。