いやー、まあ、酷評ばかりの前評判聞いてから観に行ったので、そこまで祭り上げられるほどではないと思いましたね。流石に『竜とそばかすの姫』(本当にひどかった)よりはずっと良かったです。ただ、問題はだからと言って擁護が難しいくらいには酷いんですよね…。
先に良かったところを述べますと、冒頭はめっちゃ良かったんですよ。セリフではなく映像や演出で語るストーリーテリングですんなりと世界観に入っていけましたし、僕は何よりもアクションが凄いなと思ったんですよね。スタントもどうやら『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ(本当にすみません、未見です…)のスタッフと女優さんが関わっており、モーションキャプチャーで動きを取り込んでいるので、アニメとは思えないくらいリアルで迫力のあるスタントが見れました。この辺は3DCGとの相性が大変良かったですね。
ただ、後半になるにつれて前半の良さがほとんど消えてしまうんですね…。例えば、冒頭が嘘かの如く無駄セリフのオンパレードで、特に「愛とは?」「生とは?」「死とは?」「人間とは?」「復讐とは?」「赦すべきか?」みたいなテーマの問いかけをセリフで一々口にしてしまうのは、脚本としてあまりにも稚拙でした。
あと、ストーリーテリング上イライラしたのは聖(ひじり)くんで、彼は復讐に燃えるスカーレットとは対極的に平和主義者の看護師なんですけども、平和主義者っぷりが度が過ぎているのが問題です。道中、敵の小部隊の本拠地を前にして、殴り込みをかけようと勇むスカーレットに中国の諺を引用し、馬に乗って敵陣に突っ込んでいったので「ひょっとして諸葛亮孔明的な策があるのか?」と思いきや、「戦うのはやめてくれー!」と懇願するだけで事態を悪化させそのまま戦闘に移るので頭を抱えました。
そして、この映画はワープが多すぎるのが非常に問題だと思いました。例えば、スカーレットがちょっと前まで怪我で休んでいたかと思えば次のシーンではもう敵の本丸近くにいたり、市街地で市民と屯していると思えばいきなり大合戦が始まってそれに参加している、みたいな観客を混乱させる転換があまりにも多過ぎます。もちろん、『ロード・オブ・リング』だって物語上そりゃ端折った日だってあるでしょうが、この映画はちゃんと物語を丁寧に積み立ててずに先を急ぎすぎです。
特に、脚本で根本的に問題なのは死の世界の設定です。いや、設定自体はとても面白いと思ったんですよ。死の世界では時の概念がないそうで、過去に死んだ人も未来に死んだ人も等しく同じ死の世界で彷徨います。そういうわけで16世紀に謀略で殺されたスカーレット*1は現代の看護師の聖くんとパーティーを組むわけですが、その割には聖くん以外現代人っぽい人がほとんど出てこないんですね。それどころかほとんどのサブキャラクターはスカーレットと同じ時代・同じ場所に生きた人間が登場するばかりで、この設定の面白さを全く活かせていません。ピクサーの『リメンバー・ミー』が玉石混交で色とりどりな死後の世界を描いていたのと大きな違いです。
余談ですが、僕は鑑賞中、死後の世界でヒトラーは何をしているんだろうか?と思ってました。というか、過去・未来全ての死者が死後の世界に集結するのであれば、理論上この地球上に生きた人・これから先に生きる人全員がいないとおかしいですし、もっと人口過密じゃなきゃいけないと思うんですよ。
もちろん、死後の世界で死ぬと虚無に落ちる、という設定は与えられていますが、それにしたって色んな人類がいるはずの死者の世界で16世紀のちょっと悪いくらいの王様が幅を利かせているのは納得がいかないです。この世界にはヒトラーも東條英機もオサマ・ビン・ラディンも未来のトランプやプーチン、金正恩や習近平、ネタニヤフだっているんですよ!?近代化学兵器で簡単に制圧できそうじゃないですか!『サウスパーク』の地獄描写の方がよっぽどリアルですよ。
閑話休題。脚本も悪ければ、僕はビジュアル面もちょっと褒められたもんじゃないなと思ってます。生者の世界を2Dアニメ、死者の世界を3Dアニメで描く試み・演出自体は良いと思うんですよ。ただ、この3Dアニメが2Dの良さに全然追いついていなくて、全く「生」を感じないんですよね。ひょっとしたら死者の世界だからそのつもりで全然良いのかもしれませんが、そういう演出意図の話ではなくて全然キャラクターに魂が込められて(アニメートされて)見えないんですよ。
これは僕が数日前にフルCGアニメの『ズートピア2』を見たからこそ残酷なまでに対比されてしまうのですが、ディズニーのスタッフは現実世界の動物の動きをよく研究して、それをどう人間の動きに置き換えられるか考え抜いてキャラクターを動かしました。そのおかげで『ズートピア2』のダンスシーンはとても生き生きとして活力に満ち楽しい映像になったのですが、対して『果てしなきスカーレット』の件の渋谷ダンスシーンはただモーションキャプチャーでキャラクターが動かされているだけなので、楽しそうな雰囲気とは裏腹に超絶不気味なんですよね…。あのシーン自体も存在が意味不明でしたし。
…とまあ、結局酷評気味にはなってしまいましたが、それでもやはり『竜とそばかすの姫』よりはずっとマシでしたよ。でも、僕は何が悲しいかって、僕は細田守キッズだったんですよ。今でも『僕らのウォーゲーム』は人生ベスト級に好きで、僕に演出というものを教えてくれた神様みたいな作家でした。それが年齢を重ねて出す作品がどんどん稚拙なものになってしまうのは見ていて悲しくなりますよ。これが宮崎駿みたいに「年を経るごとにゆえに常人には理解し難い作品を作る」とかそういうものならまだマシなんですけど、そういう訳でもないので…。
*1:ネタバレすると死んでないんですけどね!ラスト、生き返ったスカーレットは、どうやってこれから先憎き叔父と共生するのかな…と思ったらあっさりと毒物を誤飲して死んでるのでズッコケました。
