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顔を蹴られたファン(僕)が怒って、火山を爆発させる/『ドラゴンボールZ 神と神』☆☆☆

 先週の日曜の話。

 
 サークルの大新歓で徹夜して朝帰り、目が覚めたら既に午後。すっかり酒は抜けて、久々に予定も無いので映画館に行くことにする。
 
 海外では賞レース狙いの作品は年末に公開されるため、昨年度話題になった映画は大抵日本には春頃入ってくる。しかし、ここのところ新歓シーズンで忙しく、『フライト』『世界に一つだけのプレイブック』『シュガー・ラッシュ』『ザ・マスター』といった話題の最新映画を全く観れていない。今後も話題作が目白押しに公開されるので何か消化しないと、と焦燥感にかられてユナイテッド・シネマ豊洲にウォシャウスキー兄弟の新作『クラウド アトラス』を観に行く。
 
 と思いきや、
「申し訳ございません、チケット完売いたしました
「えっ」
 
 完全に予想外。時間は夜20:00、公開されてから一ヶ月も経っていて、公開館も都内ではこのユナイテッド・シネマ豊洲のみ。開映10分前に着いてしまったとはいえ、昨今の日本の興行事情を考えても予想外。でもせっかく寒い中片道ドアtoドアで40分かけて来たのでそのまま「ハイ、そうですか」で帰るわけにもいかず、代わりの映画を探す。
 
 『名探偵コナン』『ジャックと天空の巨人(2D)』『プラチナデータ』……。
無いよ、観たい映画が無いよ!
 
 チケット売り場で固まること5分(実際には高々30秒くらいだと思う)、迷いに迷って選ぶ。
 
「すみません、じゃあ『ドラゴンボール』をお願いします…。
 
 いや、別に観たくない訳ではないし、それどころか鑑賞予定作品ではあった。前に記事を書いたように、僕は『ドラゴンボール』の大ファンだ。今だって歴代天下一武道会の優勝者を全部言えるぜ!でも、まだ、まだ心の準備ができてないんだ……。

 

 

 一応『ドラゴンボール』を知らない人のために基本的な説明を(そんな人はいないと思うが。いたとしたらそれは日本人、否、人類失格である)。
 
 原作は少年週刊ジャンプにて1984年から1995年にかけて連載された鳥山明の漫画。世界に散らばる7つの球、ドラゴンボール。全て集めるとどんな願いでも1つだけ叶えてくれると言われるこのドラゴンボールをめぐり、孫悟空が仲間たちと大冒険を繰り広げる。
 
 既に鳥山明はデビュー作のギャグ漫画『Dr.スランプ』で爆発的ヒットを飛ばしていたけど、その『Dr.スランプ』を「描きたい題材がある」ことを理由に周囲の反対を押し切って人気絶頂の最中に終わらせて始めたのが『ドラゴンボール』なのだ。最初は中々人気が出なかったが、作風がギャグ漫画からアクションに徐々にシフトするにつれファンを獲得し、ついには『スラムダンク』『幽遊白書』と並び90年代のジャンプ黄金期を支える三本柱の一つとして数えられるまでになった。

 コミックスは累計1億5千万部以上の発行部数を記録、アニメも『ドラゴンボール』『ドラゴンボールZ』『ドラゴンボールGT』とシリーズが作られ、こちらも高視聴率を集め国民的作品となる。『ドラゴンボール』連載終了後はジャンプの発行部数が激減するほど影響力があり、連載終了して20年近い今でさえゲームやグッズが作られ続けていることからも本作の人気がうかがえるだろう。 

DRAGON BALL(全42巻セット) (ジャンプコミックス)

DRAGON BALL(全42巻セット) (ジャンプコミックス)

 そんな『ドラゴンボール』人気は国内だけにとどまらず、海外でも多大な人気を博す。東洋的な“気”の思想がウケたのか、主にキリスト教文化圏で人気で、事実かどうかは不明だけどフランスでは最高視聴率60%以上を記録したという都市伝説まである。僕は幼少期の8年くらいアメリカに住んでいたことがあり、CATVのアニメ専門チャンネル「カートゥン・ネットワーク」で英語吹替え版『ドラゴンボールZ』が放映していたことを今でも覚えている。学校に行けば皆"Super-Saiyan"やら"Vegeta"やら訳の分らぬ単語を発しており、当時は原作は未読ながら皆に交じってカメハメ波ごっこをしたものだ。
 
 その世界的人気を証明する出来事、否、事件が2009年に起きた。実写版のDRAGONBALL EVOLUTIONの公開だ。ハリウッド実写化の話自体は連載中に出ており、ジャンプ巻末の作者コメントにも鳥山明が言及している。しかし、あの壮大な世界観をそう簡単に実写化できるわけがなく、製作前からトラブルを伝えるニュースが途絶えることはなかった。こうして出来上がった『DRAGONBALL EVOLUTION』には悟空の手中に元気玉を集めるが如く、世界中の人々が一丸となって激怒した。製作総指揮として携わっていたはずの鳥山明も宣伝コピーで
脚本やキャラクター造りは原作者としては『え?』って感じはありますが、監督さんや俳優の皆さん、僕やファンの皆さんは別次元の『新ドラゴンボール』として鑑賞するのが正解かもしれません
 という珍コメントを残すこととなってしまった。

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 そんなコメントを残すくらいだから鳥山明がハリウッド版に不満を抱いていたことは間違いないようで、今回のパンフレットにもハリウッド版への苦言を呈している。自分の作品がレイプされてしまうのを黙って見ているしかない経験が相当応えたのか、今回はアニメシリーズの映画版だが初めて鳥山明が企画段階から深くかかわっている(注1)。
 
 あの鳥山明が話を考えるなら、と淡い期待を抱く一方、昨年末鑑賞した『ONE PIECE FILM Z』で見た予告編や、鳥山明がデザインしたという新キャラのダサさ、そもそも『神と神』というサブタイトルのダサさに一抹の不安を覚える。しかも邦画初のIMAX上映という、まさに「いったい誰が見に行くんだ!?」という物件。しかし、「ファンの僕が行かねば誰が行く!!」と孫悟空ばりの気概でIMAX上映に予定を合わせようとしていた矢先、冒頭に述べたとおり思わぬタイミングで本作を観ることになった。心の準備が整わぬまま、果たしていかに?

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やっぱ駄作じゃねーか!!!!
 
 
 もう唖然とするしかない。何もかもが酷過ぎて誰を責めていいかも分からない。いや、やっぱり一番の責任者はお前だ、鳥山明はっきりいってあんた原作者なのに『ドラゴンボール』を何にもわかってねーよ!!!
 
 いきなりデカデカと予告編のように「原作・ストーリー・キャラクターデザイン鳥山明」とテロップから幕を開けた映画は、まず悟空が修行に訪れている界王星にて界王と界王神のテレパシーから始まる。
 
「破壊神ビルス様が目覚めたそうです」
「なんと、ビルス様が…!」
「いいですか、孫悟空には知らせてはなりませんよ」
「かしこまりました」
「ん?ビルスって誰のことだ?
「ひえー、聞いておったか!」
 
って志村うしろーってか!このように散々新キャラビルスの恐ろしさが口頭で説明された後、いよいよビルス登場。初登場シーンから39年間寝坊とよく言えばお茶目、悪く言えばまったく緊迫感が無い。オカマのような付添人(注2)にたたき起こされる所も小物臭がすさまじい。
 
 この映画の酷い所は挙げたらキリがないんだけど、まずなんと言ってもこの悪役ビルスの設定が致命的に間違っている。破壊神なんて肩書きがついているのに、そもそも彼には悟空と戦う理由が無いのだ。強いて言うなら予知夢で見た「超サイヤ人ゴッド」という存在を求めているのだが、歴代の残忍な悪役たちの動機と比べて遥かに軽い。悟空もいつものように強い相手にワクワクして「修行してくれ!」って事で戦う事になるんだけど、もちろん修行なんで緊迫感なんて無いし、アクションシーンの動画枚数が少な過ぎて迫力の無さに拍車をかける。TVアニメかよ!
 
 一方で、地球ではカプセルコーポレーションにてブルマの誕生日パーティ。あんだけ多い登場人物達を一カ所に集める賢い手法ですね!ビルスがたった二発で悟空を倒して地球に向っている事を界王から聞いたベジータはビビりまくり。ついにビルスがパーティに現れてもずっと腰を低くするベジータ、終いにはご機嫌を取ろうとヘタクソなダンスと歌を披露する始末。劇場で笑ってる人がいたけど、真のDBファンなら王子ベジータの扱いに号泣する所だよ!(注3)

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 この影で懐かしのピラフ一味が(何故か子ども姿になって)ドラゴンボールを求めカプセルコーポレーションに忍び込むエピソードがあるのだが、彼らはついに念願のドラゴンボールを全て発見する。
 
 さて、いきなりですがここで問題です。何故カプセルコーポレーションにドラゴンボールが揃って置いてあったのでしょうか?
正解は[誕生日パーティのビンゴの景品になってた]から。
 
 この映画の製作者たちは一体ドラゴンボールを何だと思ってるんだ!!ちなみにこのエピソードは本編に全く絡んでこないので、全然必要のないシーン。マイとトランクスのロマンスなんて誰得だよ!
 
 さて、地球人の下手な歓待に段々イライラし始めるビルス。この時点で結構な小物だと思うが、意外な所から決定打を打たれる。ビルスはプリンを独り占めするブウを発見。
 
「これがプリンという物か。僕にも一つくれないかい?」
 
「…やだ!
 
 これに激怒したビルスは地球を破壊する事を決意する。地球の運命はプリン一つで決まってしまった!今まで散々みっともなくゴマをすってきたベジータ
 
「ええい、どうにでもなれーっ!
 
と突撃、瞬殺。次々に倒され、効率よく見せ場が消化されるZ戦士たち。もうどうにでもなれよ…。
 
 レッドリボン軍、ピッコロ、サイヤ人、フリーザ、魔人ブウ、DBの悪役は残虐なキャラが多い。鳥山明自身が単純明快な人なのか、悪役は悪に徹してほとんどの場合善の部分はみせない。しかし、時には彼らもドジを踏むし、茶目っ気たっぷりなボケやツッコミも見せる。だが次のページでは容赦なく無実の人々を殺す。ギャグが彼らの残虐性を引き立てており、それが鳥山作品の悪役の魅力なのだ。
 
 ビルスが問題なのは、その残虐性がまるで無いところだ。圧倒的強さを持っていても別に好んで惑星を破壊している訳ではない。先述したように悪役としての動機も「超サイヤ人ゴッドと戦いたい」という非常に弱いもので、危なさを全く感じさせない。それなのに幼稚なユーモアばかり見せているので悪役としての魅力が皆無となっている。

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 倒される地球のZ戦士たちの前に待ってましたと現れる孫悟空。実は後々ビルスとZ戦士たちが戦っている時には既に悟空は地球に到着しており、仲間がビルス戦い倒される様子を見ながら作戦を練っていたという、少年漫画の主人公としてはクズ過ぎる裏話が発覚するのだが、それでも現状では勝てないと察知した悟空は神龍を呼んでビルスが求めている「超サイヤ人ゴッド」について教えてもらう。
 
 神龍によれば「超サイヤ人ゴッド」とは、5人の正しい心を持ったサイヤ人のエネルギーを吸収したサイヤ人が超サイヤ人ゴッドだという。それを聞いた悟空は、悟飯ベジータ、悟天、トランクスの4人からエネルギーを吸収する。
 
「悟空、超サイヤ人ゴッドになれたんじゃないのか?」
「いや、ダメだ、こんなんじゃまだまだ足りねぇ…」
「もしかして、5人のサイヤ人からエネルギーをもらうから、この場には6人必要なのでは?」 
「!?そうか!!」
 
もうね、バカかと。現存するサイヤ人は地球にいる5人のサイヤ人しかいない為万事休すかと思われたが、ここでビーデルのお腹に悟飯との子が宿っている事が判明。(注4)再びビーデルも交えた5人からエネルギーをもらった悟空は、ついに、というかやっぱり超サイヤ人ゴッドになることに成功した悟空。
 
 いよいよビルスに世紀の決闘を挑む悟空。クライマックスだからあからさまに力を入れて作画がなされ、これまでのバトルシーンがウソだったかの様なスピーディーな動きに。さて結末は如何に!?

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なんと、悟空はビルスに[降参する]のだ!!
 
 この衝撃的な結末に椅子から転がり落ちた。倒すか倒されるか引き分けか、少年漫画の勝敗はこの3パターンしか無いと思っていたが斜め上をいかれた!!第1話から20年間どんな強敵にも負けなかった悟空の血闘人生を全否定する結末は確かに原作者でないとか描けませんわな!
 
 鳥山明は今作で初めて脚本を書いたが、パンフレットのよれば「超サイヤ人ゴッド」「破壊神ビルス」などのアイディアを提案したのは共同脚本の渡辺雄介らしい。フィルモグラフィを調べてみたら『20世紀少年』3部作、『GANTZ』2部作…。ロクなもんじゃねぇな!今後も実写版『ガッチャマン』という特大地雷が待機中。
 
 監督細田雅弘。守の方ならともかく、細田雅弘なんて聞いた事も無い。Wikipediaのページすら無い。調べてみると、2001年に一本だけアニメ映画を作った事があるだけの、ほぼ監督経験が無い人だった。いくら原作者が深く関わっているとはいえ、「全世界待望!」なんて銘打っている企画をこんな実績のない奴らで固めていいのかね?
 
 2009年に『DRAGONBALL EVOLUTION』が公開されたとき、世界中が「原作をレイプしやがって!」と激怒した。でも今作は親が娘をレイプしてるような物だよ!しかしこんなに酷い出来なのに、Yahoo!映画のレビューだとそこまで評判が悪くない。外国から手を出された時にはあれほど激怒したくせに、内部の犯行だと見て見ぬ振りなんですね。これに凄く日本人の保守性を感じてとても気持ち悪く思ってしまった。2009年の実写版の出来も最悪だが、本家がこの出来だと思うとある意味『DRAGONBALL EVOLUTION』よりこっちは酷いよ!


注1 これまで原作者がアニメシリーズに口出しすることは珍しかったが、2009年に尾田栄一郎が全面監修した『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』が公開されて大ヒットして以来集英社は二匹目のドジョウを、とこれまでに『BLEACH』『NARUTO』『HUNTER×HUNTER』など人気作を同様に原作者企画・原案の映画を作り話題を呼んだ。こうした作品の強みは原作では諸事情で描けなかった部分や伏線を原作者が携わることで自由に描ける面白さであり、間違いなく原作ファン層を映画館に呼び込めるので興業的成功も保証されている。しかし、『HUNTER×HUNTER 緋色の幻影』のように駄作も多い。
 
注2 何故か鳥山作品には良くオカマのキャラが出てくる。(中性的という事ではない。)悪く言えばワンパターン。
 
注3 なお、TVCMのスクリーンショットを貼ったが、このTVCMでのフリーザとセルの扱いも泣ける。公式にヤムチャ&天津飯コンビに次ぐ凸凹コンビになってしまったのか…。
 
注4 悔しいがこのシーンはちょっと感動的だった。ちょっとだけな。