『キングダムハーツIII』オラフ声優差し替えに見るデジタル文化への危機感

 ピエール瀧逮捕の余波が続きます。

 つい先日僕もクリアした人気ゲームシリーズ『キングダムハーツIII』でもピエール瀧は『アナと雪の女王』の人気キャラクターオラフの声を映画版から引き続いて担当していましたが、スクウェア・エニックスは今後修正パッチを配布し、オラフの声優を交代すると発表したとのことです。

 

 不祥事を起こした著名人の関連商品の販売中止・回収、予定されていた映画・ドラマの公開中止はよくある話です。また、例えばNetflixドラマの『Jimmy〜アホみたいなホンマの話〜』では配信直前に発覚した小出恵介のスキャンダルにより急遽明石家さんま役を玉山鉄二に置き換えられ再撮影を行ったり、ハリウッドでも『ゲティ家の身代金』でケヴィン・スペイシーのスキャンダルに伴い公開から1ヶ月以内にクリストファー・プラマーを代役に立てて急ピッチで再撮影を行う、という事態もありました。

ゲティ家の身代金(字幕版)

ゲティ家の身代金(字幕版)

 

 

 ただ、一度発売された作品に出演していた役者(声優)が交代させられる、という例はあまり聞いたことがありません。同じディズニー作品では、1993年の『アラジン』でアラジン役の羽賀研二が2007年に未公開株詐欺事件で逮捕された際、2008年に発売されたスペシャル・エディション版DVDでは声優が三木眞一郎に交代した、ということはありましたが、発売から僅か2ヶ月しか経っていない作品で役者(声優)を交代するスピーディーな対処が取られたのは前代未聞です。

 

 今回の声優交代劇はスクウェア・エニックスの判断なのか、ディズニー側の判断なのかは定かではありません。ただ、間違いなく言えることは、このような急対応での声優差し替えが可能となったのは映像・ゲームのデジタル配信化が進んでいるからであり、今後似たような事例は益々増えていくことでしょう。そして僕はそこにある種の危機感を禁じえません。

 

 仮定の話で大変恐縮ですが、例えば配信中のNetflix(HuluでもAmazonビデオでもなんでもいいです)オリジナル作品で、出演していた関係者が不祥事を起こし、代役を起用し追加撮影して差し替え・再配信、といった流れが容易に想像できます。ここでもし差し替え前のオリジナル版が見れるなら問題ないですが、元バージョンはあたかも最初から存在しなかったかのように封印されてしまう可能性の方が高いのは今回の『キングダムハーツIII』の対応から目に浮かびます。

 

 これは『スター・ウォーズ』特別編問題に根底で繋がっていると思います。映画ライターの高橋ヨシキさんが以前NHKラジオ『すっぴん』で指摘していました*1が、『新たなる希望』は公開当時アカデミー賞最優秀編集賞・視覚効果賞などを受賞し高い評価を受けました。しかし、ルーカスが最新のデジタル技術で修正した特別編を公開して元のバージョンを封印し、DVD・BD発売時にも更に手を加えていってしまうことで、公開当時に『新たなる希望』の何が評価されたのか・どうして人々の感動を呼んだのかがどんどん分からなくなってしまう、という問題をデジタル修正版は孕んでいるのです。

 

 確かにコカイン吸引はとても褒められたことではありません。しかし、ピエール瀧の吹き替えが日本語版のオラフを唯一無二のキャラにしたことも事実です。不祥事によりアーティストが作り出した作品が封印されてしまうのは歴史修正主義的な思想に繋がっており、とても危険なことだと思います。このままコンテンツのデジタル化が進んで芸術作品の修正や改変が益々盛んになると、スーパー極端な話、非PC的な人物が創出したアートや書物は全て封印されてしまい後世の人が閲覧することができなくなってしまう、といったディストピア的な未来予想図だって描けてしまうからで、これは表現の自由を脅かすことにもなります。

 

 『キングダムハーツIII』がゲームだからかまだこの問題に触れている人はあまり見かけませんが、前例が作られてしまったからこそ早期に盛んに議論されるべき問題だと思います。しかし、こうした自主規制ムードが蔓延する中、ピエール瀧が出演していた『麻雀放浪記 2020』を「有料コンテンツとして観客の判断にゆだねる」として予定通り公開に踏み切った東映の英断には拍手を送りたいです。

 

キングダム ハーツIII - PS4
 

 

*1: