『ズートピア』ミーツ『デトロイト・メタル・シティ』/Netflixアニメ『アグレッシブ烈子』感想

 この年末年始を通してNetflixアニメ『アグレッシブ烈子』を観賞。当初は親戚たちと時間潰しの為に観ていたはずがあまりの面白さに一気見で観終わってしまったので、感想を箇条書きで書いていく。

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  • 可愛らしいアニメキャラクターが特徴だが、そもそもはキティーちゃんでお馴染みのサンリオが2015年に生み出したキャラクター。しかしその可愛らしい見た目とは裏腹に世知辛い大人社会を反映した辛気臭いストーリーとメタルな設定が最高のアニメ。どういう話かと言うと…
  • 主人公は25歳独身OLのレッサーパンダ、烈子。烈子は某大手企業の経理として働いているが、豚のトン部長からパワハラを受け、コモドオオトカゲのお局さん坪根さんからはいびられる日々。彼らからの理不尽な要求に黙々と健気に応える烈子は周囲からは「真面目だけど地味な女の子」という評価を受けている、どこにでもいそうな普通の女の子。ところが…!
  • 周囲の期待に応えようと真面目なキャラを演じれば演じるほど、当然仕事のストレスは溜まっていく。ストレスがキレる寸前まで溜まった時、烈子は決まってカラオケ店に行き、一人でデスメタルに乗せて不平不満を熱唱するのが烈子のアグレッシブなストレス解消法なのだ!可愛い動物キャラがいきなり豹変してデスボイスで叫ぶギャップがとにかく笑えて最高。

  • 設定自体は10年くらい前に流行った『デトロイト・メタル・シティ』と一緒なのだけれども、あちらはポップミュージシャンを目指す童貞青年・根岸崇一が童貞故の社会や音楽業界への恨みつらみをデスメタルに乗せて歌うのを笑うギャグ漫画であったが、『アグレッシブ烈子』は日本社会での女性の生き辛さをデスボイスでシャウトしている。本音と建前を分けるのが苦手な日本人の性格をよく反映できている。
  • そもそも現実社会を戯画化する手段として動物の擬人化というのは打って付けの手法だ。『ズートピア』は動物を使ってアメリカ社会の多様性を反映していたが、『アグレッシブ烈子』は動物を使ってよく見かける色んな性格の日本人を表現していて面白い。例えば、ブーブーすぐ部下を虐めるトン部長は豚だし、計算高く完璧にぶりっ子を演じる角田さんは目がキラキラしてる鹿だし、ゴシップを社内にすぐ垂れ流すカバ恵さんといった具合だ。
  • 『アグレッシブ烈子』は女子ウケを狙った作品ではあるのだろうが、そういった作品がやりがちな結婚や恋愛を問題解決の手段として描かなかったのがとても偉いと思う。劇中、理不尽な環境に耐えかねた烈子は寿退社を目指し、念願だった彼氏も作る。ようやく不器用だった自分の人生に転機が訪れて幸せを噛み締めているはずの烈子だったが、どこか空虚さを拭いきれない。結局彼女は真面目キャラを演じていた時と同じく、幸せな自分を演じていただけに過ぎなかったのだ。烈子の問題は彼氏がいるかどうかではなく、自らの本音を押し殺していたからだったと言うことに気付くのだ。
  • これは男女関係なく、誰にでも共感できる問題だろう。ブチ切れた烈子が毎話の終わりで不満を爆発させるのは笑えるけど、僕も中々本音が言えないたちの人間なのでいつも共感させられる。ちなみに『アグレッシブ烈子』は海外でも大ヒットしているそうだが、日本人に限らず万人に共通する人類の基本的な悩みなのだろう。
  • なお、本作で描かれるパワハラ描写は少々古臭く、それを指摘している声もあるにはあるが、まあ僕はあくまでデフォルメ化された日本社会と捉えているのであまり気にならなかった。ただ、クライマックスで決算期を迎え、経理部全体で地獄のように徹夜作業したことが烈子の成長に繋がっていることが、ブラック企業礼賛になりかねなず、本来この作品がやりたいこととは真逆の描写なのでそこは些か問題があるように感じた。
  • というか、日本映画って徹夜で全員一丸となって何かを乗り越える作品が多いよね、『シン・ゴジラ』とか『舟を編む』とか『バクマン。』とか…。今あげた作品は全部好きだけど、それを美とする精神性はちょっと危険な気がする。

アグレッシブ烈子の毒り言

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