『水曜日のダウンタウン』の「新元号当てられるまで脱出できない生活」企画がとにかく最高で、演出の教材としてこれ以上ない作品にもなっていたた。冒頭、企画に参加させられたお笑いコンビ「ななまがり」が不気味なくらいコンプライアンス重視で丁寧に拉致られる下りも、昨年「鉄塔生活企画」第2弾でコロチキのナダルを拉致った際に警察沙汰になり企画がお蔵入りになったことに対する中指付きのアンサーにも思え、藤井健太郎節にニンマリさせられる。やんわりとアニメ版『ジョジョの奇妙な冒険』のBGMが流れていたのも、これが鉄塔企画のリベンジ戦であることを思わせる。
令和発表前夜、3/31。新元号を当てるまで帰れない二人は外の世界からは完全にシャットダウンされるべく東京から2時間離れた埼玉県の某所のアパートに連れ去られる。アパートの名前が「平成荘」なのも肝で、文字通り「平成に取り残された2人」を表している。これぞまさにバラエティにおける「演出」の楽しさで、だから僕は藤井健太郎の番組に絶大な信頼を置いているのだ。
ななまがりの二人は5分に一回解答権を与えられ、予想した元号を習字に書いて発表する。何故好きなタイミングではなく、5分に一回なのか。これはあくまでも元号の「発表」に重きを置いているからではないだろうか。菅官房長官が額縁に入った「令和」の二文字をカメラの前に発表したように、ななまがりも新元号を発表しなくてはならないのだ。だから好きな時に元号を書きなぐるのではなく、タイマーを設置されたのだろう。また、ななまがりが今回の企画に抜擢されたのは売れてないのでスケジュールが空いていたからだけではなく、森下が菅義偉に似ていたのもポイントの一つだそうで、これもまた「発表」を重視していたことが伺える。
そこから地獄のような監禁生活が始まるわけだが、もちろん当てずっぽうで答えても当たるわけがなく、2日目からは毎日2000円が支給され、更にチャンスクイズによる資金獲得で支援物資を購入できるようになる。*1支援物資も「タバコ1本50円」「エアコン 3000円」「ヒント松 3000円」「ヒント竹 5000円」「ヒント梅 10000円」といったもので、藤井が愛読する『賭博黙示録カイジ』のペリカシステムを彷彿とさせる。ちなみに藤井は2017年末に『カイジ』を『人生逆転バトル カイジ』として史上初の漫画原作バラエティ特番を作っている。
当然、ヒントの購入を目指してななまがりはチャンスクイズを頑張るが、まず初めに二人が購入したのがタバコ、というのが人間臭くて泣ける。Twitterでは「こんな時にたばこって中毒者は恐ろしい」なんて明後日の方向で議論が巻き起こっているらしいが、別にタバコくらいいいじゃん。なお、あかつ企画しかり喫煙所企画然り、『水曜ダウ』は昨今の番組にしてはタバコを惜しみなく、というか積極的に映し出す。
こうした藤井節全開の演出と極限状況に置かれたななまがりの根性も相まって、クライマックスではスタジオの観客席では拍手が巻き起こり、観ているこちらとしてもとてつもないカタルシスを得た。バラエティというジャンルの一作品として完成されている。去年の「モンスターハウス」騒動で少し委縮してしまうかと危惧したか、そんなのはこちらが心配するまでもなかった。改めて藤井健太郎恐るべし。