そんなに人間が好きになってたか?/『シン・ウルトラマン』★★☆

 円谷プロの国民的シリーズ『ウルトラマン』を『シン・ゴジラ』のチームが再映画化した『シン・ウルトラマン』をIMAXレーザーGTにて鑑賞。監督は樋口真嗣、総監修・脚本・編集・企画...etcは庵野秀明、音楽は鷺巣詩郎。主演に斎藤工、共演に長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり田中哲司山本耕史ら。

 

 『シン・ウルトラマン』の予習のために、TVシリーズウルトラマン(1966)』を全話視聴した。3日間もの間、起きている間はほとんどウルトラマンを見る生活は正直ノイローゼになるかと思ったが、結果的には苦労が報われる映画ではあったと思う。庵野秀明樋口真嗣*1ら製作陣によるウルトラマンへの愛が十分に伝わってくる映画で、原作シリーズからの引用が想像していたよりも多くてニンマリする。巨大化する女性隊員が出てくるとは思わなかったし、とある敵にウルトラマンがチョップした際にスーツアクター古谷徹が手を痛めたイースターエッグまで再現されていたのは笑ってしまった。

 

 一方で、その作り手の「リスペクト」が時に強すぎて作品を歪なものにしてしまっているのは否めない。2時間もない尺の中に5匹以上の禍威獣・外星人を登場させているのは濃密だが、一方であまりにも人間ドラマが希薄になっている。『シン・ゴジラ』はゴジラVS人類という構図を浮かび上がらせるためにあくまでゴジラ撃退に焦点を当てており、余計な人間ドラマを徹底的に排した事が功を奏した。『シン・ウルトラマン』も『シン・ゴジラ』と比較的似たアプローチが取られたが、ゴジラと違って変身ヒーロー物のウルトラマンで人間ドラマが薄くなってしまうと、共感を得られにくくなってしまう。

 

 例えば、本作のキャッチコピーである「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。」は『ウルトラマン』最終話に出てくる名台詞にして本作にも登場するメッセージにもなってくるが、本作のウルトラマン=神永新二は大体雲隠れしているか拉致されていて登場場面が少なく、禍特対メンバーとの交流も少ないためウルトラマンが人間が好きになる過程がイマイチ不明瞭だ。なおかつ、神永新二演じる斎藤工はアニメ調にひたすらぶっきら棒に話させる演出を樋口監督が取っているため、余計に共感を得にくいキャラクターになっている。

 

 この「アニメ調」の演出が、本作を見ている上で少しキツいところもあった。特に有岡大貴、早見あかりのセリフや口調が作品のリアリティラインからすると違和感が目立ってしまい、浅見弘子演じる長澤まさみがやる気を出す為にケツを叩くカットを一々挿入するところもアニメ的*2だが、実写にすると編集テンポの悪さを感じてしまう。が、キャストが悪かったかと言えば決してそういうわけではなく、これが単に樋口真嗣や監修の庵野秀明が取った演出プランであり、そもそも人間ドラマにさほど興味もなかったであろうから製作陣にとってはこれでよかったのである。

 

 しかし、『シン・ウルトラマン』を批判する気にはならず、どこか好きになってしまうのもその歪さ故であったりもする。『シン・ゴジラ』と同じアプローチの撮影手法で、現場で同時に10台以上もの台数で回していたカメラの中から庵野秀明が編集で抜粋したショットの奇抜さには、底辺ながらも映像作りを生業にしている身としては興奮してしまった。リモコンの先にカメラを置いたり、視線を左右に誘導するアームチェアの隙間から人物を狙うショットなど、一体誰が思いつくだろうか。1ショット1ショットが自主映画の現場を思い出させるようなアイディアに満ちていて、映画的快楽に溢れている。*3また、庵野節の全開のメフィラス星人の口調やクライマックスの展開も凄く楽しい。

 

 最後にまとめると、僕は『シン・ゴジラ』はオールタイムベスト級に好きなのだが、何故似たようなアプローチで作られた『シン・ウルトラマン』にはそこまではハマらなかったか原因を考えてみると、『シン・ゴジラ』はこれまで『ゴジラ』シリーズが何度リブートされようとも普遍としていた54年版ゴジラの存在までもリセットし、シリーズのお約束もゴジラの既成イメージも全てぶっ壊したドライさとその自由度が高さに僕は打ちのめされたのだ。逆に『シン・ウルトラマン』は作り手の愛ゆえにあれもこれも詰め込んで、それが製作陣にとっての足枷となってしまった窮屈さを感じてしまったのかもしれない。

 

 でも、やっぱり嫌いにはなれない、そんな不思議な映画。そんなに『シン・ウルトラマン』が好きになったのか。

 

*1:樋口監督には申し訳ないが、どうしてもこの順番になってしまう

*2:あと、巷で問題の匂いを嗅ぐシーンだけれど…まあ、個人的には極端に糾弾する気はないが、普通に演出として生々しすぎてキモいとは思ったな

*3:ただし、一つこの手法の欠点として、IMAXレーザーなど高解像度の劇場で鑑賞してしまうと、シネマカメラで撮られた画質とiPhoneやGoProで撮られた画質があまりにも違いすぎてノイズになっていたことは書いておきたい。特に、肝心の人物のアップをiPhoneで撮ってしまうと、色が潰れてしまっている…