最近はもっぱらNetflixが独占配信している『マイケル・ジョーダン:ラスト・ダンス』にハマっています。バスケという枠組みを超えて単純にドキュメンタリー作品として非常に良くできていて、スポーツに興味のない映画やドラマファンにもオススメなので、全体の感想については放送終了後にまた書きます。(全10話が配信予定)
毎週2話ずつ配信で、今週は3話と4話。『ラスト・ダンス』はジョーダンが最後にシカゴ・ブルズに在籍して引退した97-98年のシーズンを基本軸にしつつ、毎話当時のブルズに関わりが深い人たちにスポットを当てていく縦横無尽な作りが斬新なシリーズなのですが、第4話は1989年から1998年までブルズのヘッドコーチ(HC)を務めたフィル・ジャクソンがフィーチャーされました。
フィル・ジャクソンといえば、コービーの現役時代にLAレイカーズを率いて5度の優勝を経験しており、ブルズ時代と合わせれば計11回も優勝している桁外れの名将であります。しかも、その内3連覇を3回。ヤバい。
こちらの写真を見ると、何となく柔和なお爺さんという印象が強いです。というか、僕がまだNBAに詳しくないので勝手にそういう印象を抱いていた、というのもありますが、『SLAM DUNK』の安西先生をなんとなく想起させます。*1
▲『SLAM DUNK』を読んでいない人でも知っている名シーン
が、安西先生にも誰も知らない過去があったように、『ラスト・ダンス』第4話で明らかになったのはフィル・ジャクソンのロックな人生でありました。
フィル・ジャクソンはモンタナの小さい田舎町で、牧師の家で育ちました。「キリストは必ずや再臨なさるので、携挙*2とされるように過ごしなさい」とジャクソンは厳しい聖職者の母から耳にタコができるくらい言われてきましたが、そんなよくわかんない話よりもジャクソン少年はバスケに夢中でその道に進むことにしました。
一点とても面白いのは、ジャクソンはアメリカ先住民族に対して深い興味を持っていた、ということです。ジャクソンが子供の時、近くの居留地からアメリカ先住民の家族がやってくることがよくあり、保守的な田舎っぺ白人の大人たちは「彼らに近づいてはいけません!」と言われていましたが、ジャクソンは構わず先住民の子どもと遊んでいたそうで、友達同士でカウボーイごっこ*3をする時も進んで「インディアン」役を引き受けていたそうです。
バスケ選手として才能を光らせたジャクソンは、ニックスにドラフトされ2度の優勝も経験しました。しかし、ジャクソンは当時典型だった「フラタニティ(体育会)的」なNBA選手とは違い、髪や髭を長く伸ばしたり、奇抜なファッションをしていたそうです。自著にはアシッド(LSD)も摂取していたことを明かし、番組内では「まるでヒッピーのようだ」と形容されていました。ジャクソンは、カウンターカルチャー真っ只中で選手として過ごしたのです。
▲キメッキメなフィル・ジャクソン
選手を引退したジャクソンはその後コーチとしてのキャリアを積みます。ジャクソンがブルズのアシスタン・コーチに就任した当時、ダン・コリンズHCが率いるブルズはジョーダンのワンマンチームでした。もちろん、ジョーダンはリーグ屈指の得点力で既にスター選手となっていましたが、通称「バッドボーイズ」ことデトロイト・ピストンズのフィジカルさを前に何年もプレーオフで敗れ続けていました。
コリンズが解任された後、フィルは方針を転換し、チームでプレーすることを重視します。有名なトライアングル・オフェンスはここから始まったのですが、ジャクソンは更にチームの一体感を高めるために、禅仏教や先住民の思想を勉強し、練習やプレースタイルに取り入れたのです。
こうしてチームに変革をもたらされたブルズは優勝へ向かって突き進んで行ったのですが、そのメソッドの裏にはフィル・ジャクソンのヒッピー的な考え方や生き方があった、といっても過言ではなく、フィル・ジャクソンはジョン・レノンや『2001年宇宙の旅』などと同じ文脈で語るべきなのかもしれません。
なお、他にもこの回で最高なのは、独善的なプレーをするマイケル・ジョーダンに対し、アシスタントコーチが「チーム(TEAM)という文字に自分(I)はない!」と注意するのですが、憤慨したジョーダンは「何言ってやがるんだ!勝利(WIN)にはあるだろう!」と返したというエピソードです。MJにしか言えない文句だよ!