コロナによって2年間の中断期間を経て、ようやく『サウスパーク』の最新シーズンが放送開始!その間2本のテレビスペシャル版と2本のテレビ映画版があったけど、とにもかくにもようやくいつものフォーマットであの四人組が帰ってきたのだ。その記念すべき第一話は、まさか日本にとってタイムリーな話題だった!?
久しぶりに始まった学校で、大統領としての公務を終えて*1、教壇に戻ってきたギャリソン先生。しかし、教員仕事はそっちのけで、生徒達相手に恋バナばかり。それどころか、休校中に新しくできた彼氏のリックを教室につれてきて生徒達に自慢するが、誰も興味がない。「皆静かだけどあなたのことが大好きよ〜そしたら放課後迎えにきてね、ば〜い!」とリックを返すと、すかさず元カレのマーカスから電話がかかってくる。
「不味い!…ハ〜イ、マーカス!えっ、リック?リックなんて知らないわ、だって私今教室で授業しているもの。ねえ、子供たち?」とギャリソン先生は必死に取り繕うが、子供達は依然として無視。「もう、あんたたち、少しは助けたらどうなの!?あれ、ちょっと待って、マーカス、違うの!マーカス、マーカス!」どうやらマーカスはブチギレて電話を切ったらしい。
「あんた達は先生が呼びかけても何も発言しないで無視しやがって!もうウンザリ!」とギャリソン先生は逆ギレにも程があることを喚くが、運が悪いことにPC校長がちょうど見回りで様子を伺いにきたタイミングだった。「いい加減にしろ!大変な仕事をしている教員を馬鹿にしやがって!教員へのリスペクトを覚えるまで、貴様らのクラスだけ今週金曜日のパジャマ登校デーは無しだ!」とPC校長に怒られてクラスはパニックに。
楽しみにしていたパジャマ登校デーを没収された男子たちは作戦会議を開く。「こんなのブルシットだ!オイラ達は2年間何もしてなかったのに、また楽しいことを取り上げられるんだ!」とカートマンはカンカン。「でも何ができるってんだよ?」と諦め気味のスタンに、「あのマット・デイモンの仮想通貨のCMのように、オイラたちはタマを持ってるってことを校長に知らしめてやるんだ!」とカートマンは校長室へ乗り込むことを決意する。
余談だが、ここでカートマンが話しているマット・デイモンのCMとは、仮想通貨に投資することをさも宇宙に行くかのような勇敢な冒険のように誇大広告してアメリカ炎上したCrypto.comのCMのこと。このエピソードには天丼ギャグとして何回も登場する。
カートマンが乗り込む前に、ウェンディ、ヘザー、そして号泣しているミリーが校長室に乗り込む。「あの、私たち本当に何も間違ったことをしていないので、どうか金曜日にパジャマを着て登校させてくれませんか?」とウェンディは真摯に頼むが、「すまないが、俺は校長であり、校長は秩序を保つために決断を変えるわけにはいけないんだ」とPC校長は頑な。すると突然ヘザーがブチギレて「あたしたちがどれだけパジャマデーを待ってたと思うの!?パジャマデーに普通の服着てこいって、ナチスドイツのつもり!?このファシスト!」と校長を批判する。
「自分が望んだものを手に入れられないからって、人をナチ呼ばわりしちゃいかんと何回言ったらわかるんだ!」と叱ってPC校長は女の子たちを追い出すが、その様子を見ていたマッケイ先生はPC校長の心配をする。「引き返せなら今のうちだよ、ンケーイ。パジャマデーは子供たちにとってMETガラくらい大切なものなんだよね、ンケーイ」と助言するも、「でも今決断を変えてしまったら、弱く見えてしまうだろ?」とPC校長。「ンケーイ、でもあなたが思うような展開にはならないと思うけどね」と不吉な忠告をしてマッケイ先生は去っていく。
その夜、パジャマデーに普通の服で登校して学校中の笑い者になる悪夢を見たカートマンはママに泣きつき、PC校長先生に苦情の電話をしてもらう。「あの、もしもし、私の息子がパジャマで登校できないと伺ったんですが、なんですかこれは?ナチスドイツですか?」「…ええ、エリックはパジャマ登校を禁じられたクラスに在籍されていますね。そして私の決断は変えません」「マット・デイモンも勇気出して投資しろって言ってました!息子にパジャマ登校させないんだったら、メディアに全部リークしますからね!」
ママは有言実行してローカルニュース局を呼ぶ。小学校の前で報道するレポーターも「みなさんグーテンダーグ、ハイルヒットラー!明らかに私たちはナチスドイツ時代に生きています!」と学校を批判。そのお陰もあって、4年生達がパジャマ登校デーに参加できない噂はすぐさま町中に広まり、子供達への連帯を示した大人達はパジャマで外へ出かけ、仕事に行く抗議運動を始める。
とある不動産会社では…「パジャマで出勤することは可哀想なサウスパーク小学校の子ども達に連帯を示すことになるね!いや〜我々は良いことしてるな〜」とパジャマ社員同士で楽しんでいると、普通のスーツ姿で出勤する社員が出社してくる。
「君はなぜパジャマを着てこないのかね?」
「いや、まあ、パジャマを着て出社したくなかったもので」
「俺たちは皆パジャマを着ているけど?」
「パジャマで外出するなんて、ちょっと意味がわからなかったもので…」
「マイク、俺たちは正義を見せようとしているんだ。パジャマを着れば良いだけの話さ、大したことじゃない」
「大したことじゃないんだったら、パジャマなんか着たくないね!俺に何を着せるか強制させるなんて、なんだここは、ナチスドイツか!?」
騒ぎが大きくなりすぎたことを見かねたPC校長はウェンディを体育館に呼びつける。「戦略的決断を下す…なんとかギャリソン先生の気を変えて君たちがパジャマ登校することを許可させてくれないか?」「えっと…どうしてそんな回りくどいことを?」「何故なら俺が簡単に命令を変えてしまったら、弱そうに見えるだろ!これは貴様の問題だ、頑張りたまえ!」と何故か高圧的に指示して去ってしまう。果たしてウェンディはパジャマデーを救うことができるのか…?
これまでのテレビスペシャルとTV映画版が壮大なエピソードが続いたため、久しぶりにテレビサイズのスケール感が戻ってきて見ながらホッとしていた。おかえり、『サウスパーク』!
このエピソードで繰り返し登場するのは、先述したマット・デイモンのインチキくさい仮想通貨のCMと、自己正当化が行き着くあまり敵対勢力をナチスドイツと揶揄するくだりだ。これは見出しばかりが行き交うSNSでよく見られる風潮だが、右派でも左派でも己の主義主張を盲目的に過信してしまい、少しでも自分と意見の食い違う個人や団体をセンセーショナルな修辞句を使って悪魔化する。
英語でも最近「Rhetoric of Demonization(悪魔化のレトリック)」や「Politics of demonization(悪魔化の政治手段)」というフレーズが生まれているくらだ。このエピソードではその馬鹿馬鹿しさを極端にナチスドイツで表している。実際トランプ政権時代は民主党は当然トランプをヒトラーと批判していたのに対し、トランプも民主党をナチスと揶揄してしまうので笑ってしまう。*2
このエピソードを見れば、我々日本人はどうしても現在進行形で行われている立憲民主党と日本維新の会がしょうもなさすぎるTwitter上の喧嘩を想起するだろう。誤解なきように言っておくと、僕の政治的イデオロギーで言えば日本維新の会は大嫌いだし、相手の危険な政治的思想や手法をヒトラーやナチスに喩えて批判するのは間違ったことだとも思わない。
それにしたって、政治家や政党同士が扇情的な言葉を使ってTwitter上で罵倒しあっているのは、投票権を持つ一市民としてあまりにも情けなさすぎる。そこから派生するツイート喧嘩がアチコチの評論家同士で行われているのも、本当に疲弊するしため息も出てくる。右も左もバカばっかだから、一旦落ち着いて『サウスパーク』でも見とけって!
ただし、このエピソードで特筆すべきなのはPC校長が「弱く見えてしまう」ことを恐れて頑なに決断を変えようとしないことで、これは「有害な男らしさ」の解体を描くエピソードかと思いきや、パジャマ登校デーを禁じるとどうな酷い目に遭うのか、その因果応報の帰結があまり描かれないまま終わってしまったので、正直エピソード単体としては弱く見えた。まあ、始まったばかりなので今週以降に期待ですね!