英語は使えば話せる

 大学生の時、年末年始はよく築地市場の肉屋でバイトをしていた。うちの映画サークルに何故だか歴代伝わっているバイトで、そのお店が借りているアパートに住み込んで早朝から働く。仕事が終われば売れ残った牛肉をもらい、夜な夜な仲間ですき焼きを食いながら『貞子3D』をツッコミながら見たり、64持ち込んで『スマブラ』に明け暮れたのはいい思い出だ。

 

 んで、ここの肉屋の女将さん、名前はなんて言ったかな、確かヤナさんだと思うんだけど、とにかくこのヤナさんがパワフルで凄かったんだな。僕らが肉の値段計算を電卓使いながらアワアワしている横で、g数を見るなりヤナさんは瞬時に計算できたし、なんなら例えば客に300gの肉を注文されたら300gの肉をピッタリ商品棚から出すことができる。

 

 僕が何よりも感心したのは、ヤナさんの語学力だった。当時の築地市場は国際的にも有名な場所で、しょっちゅう外国からのお客さんが観光で肉を買いに来ていたんだけど、ヤナさんはどんな言語でも対応できちゃうんだな。英語はもはや当然のこととして、ロシア人がくれば超簡単なロシア語で会話していたし、スペイン人が来ればスペイン語、中国人がくれば中国語、といった感じ。長年外国人観光客の相手をしているうちに、ヤナさんは各国の言語を覚えちゃったみたい。

 

 さてさて、月日が経ち昨日のこと。僕は嫁さんの家族を連れて河口湖に来ていて、富士山の名所として知られる新倉山浅間公園に行ったんだけど、新年度の始まりである4/1に富士山に観光に来ている日本人なんてプータローの僕以外ほぼ皆無で、8割方外国人観光客と言っても過言じゃない。その公園の近くには山小屋というか簡易なレストランがあって、そこも外国人観光客で賑わっていた。

 

 で、僕がまたビックリしたのは、ここの店員全員が英語で注文を取っているんだな。綺麗な英語とは言わないけど、大声で元気のいい商売人っぽい英語。勝手な偏見でちょっと失礼な言い方だと自覚しているけど、僕はヤナさんもここの店員たちも特に学生時代から英語が得意だったり、語学学校に行ったり海外に行ったわけじゃないと思うんだけど、生きているうちに自然と言語が身についたんだな。

 

 日本人は英語がコンプレックスって話はよく聞くし、電車に乗ったりYouTubeで見かける英語講座や教材広告の圧倒的な量を見ても、実際にそうなんだろう。でも、他言語を話せたり聞けたりようになる一番の近道は、たぶん高い金を払って座学をしたりYouTubeを見ることじゃなくて、その言語を使わざるを得ない環境に放り込まれることなんじゃないかって、ヤナさんとレストランの人たちを見て思ったよ。

 

 なお、僕はいつまで経っても中国語が上達せず、嫁さんの家族と全然会話ができないので、嫁さんからはHSK(中国語検定)をいい加減に受けなさいって言われている。いや〜言語は座学じゃないからさ…。え?台湾に放り込まれてこいって?い、いやあ〜、まあ、そのうちね、そのうち…。