「Barbenheimer」騒動だけどさ…みんな落ち着け!

 『バービー』US公式Twitter(じゃなくてX)アカウントが「Barbenheimer」の原爆を揶揄したミームに反応し、大炎上してしまっている件。当初映画ファンが怒っていたこの件はいつの間にか(というか必然的に)ネトウヨ層にまで飛び火して、『バービー』日本公式Tw...Xアカウントが一足先に声明文を発表する事態になりました。

 

 ワーナーブラザーズジャパンからしたら、8/11の公開に向けて広告やマーケティングにいよいよ本腰を入れようとしている時期に、SAG-AFTRAストライキのせいでメインキャストがジャパンプレミアに来日できなくなるは、US本社側のポカのせいで大炎上するはで、初っ端から冷や水アイスバケツチャレンジが如くぶっかけられている状態なので、この迅速な対応は賢明だったと言うべきでしょう。そうでなくても、我々はビッグモーターのアレをここ数週間見てきたので、単純に不祥事に対する一企業の対応としても素晴らしかったと思います。

 

 余談ですが、『バービー』公式が声明文を出したことで、アメリカの大手映画系ニュースサイトでも報じられることになりました。日本人の怒りがしっかりとアメリカサイドに伝わりました。

 

 この炎上は起こるべくして起きたな、と僕は思うのですが、一部映画ファンやアメリカ事情通による無理筋な擁護には違和感を覚えてしまいました。特に僕が今朝起きて目にしてクラクラしたのはこの方の一連のツイートでした。

 

 僕は映画秘宝のDM事件が起きる前からTwitterイデオロギー闘争を繰り返す氏のツイートを見るのが辛くてフォローをやめたのですが、久しぶりに見てみたら相変わらずお元気な感じである意味安心しました。

 

 まず、『バービー』の騒動が大きくなった過程は鮮明に記憶していますが、最初に異を発していたのは映画ファンで、その主張は大半は「原爆は悲劇であるので、ネタとして軽く消費しないでほしい」といったものでした。「『バービー』楽しみにしていただけに残念」と言う声はたくさんありましたが、この時点で「『バービー』観に行かない」という人は少なかったと思います。だって、映画ファンだもん、観たいもん。

 

 で、事態がややこしくなったのはネトウヨやライト層が参戦してからで、SNS特有の大きな声を振りかざして「『バービー』絶対見ない」という声が増えていきました。だからこそ、『バービー』日本公式が声明文を出す事態にまで発展したと思いますが。心苦しいのは、大炎上した大元の『バービー』US公式7/21のツイートが7000件以上RTされてリプ欄もとんでもないことになっているので、時系列順に整理することが困難なのですが、大まかはこんな流れだったと思います。

 

 これを「史上最悪のキャンセルカルチャー」と片してしまうのは違和感でしかなくて、上記のように大元を辿れば原爆の日が近いこの夏の時期に、非常に無神経なリプライを飛ばした『バービー』米公式アカウントの配慮が足りなかったと言うことに尽きるでしょう。確かに作品そのもののメッセージ性や監督などには罪はないでしょうけど、仮にも「公式」のアカウントが原爆をネタ化しているツイートにリプライを飛ばしているので、抗議する人が出るのも当然ですよ。

 

 また、二つ目のツイートに関しては本当にズレていると言うか、騒ぎに乗じているネトウヨは論外なので置いておいたとしても、今回の騒動に自民党は全然関係ないし、日本では公開前の『バービー』を観れている人はほとんどいないので、『バービー』で描かれている「フェミニズムが嫌」かどうかは知る由もありません。ちなみに、こちらのツイートはしれーっとツイ消し後修正されたもので、元のツイートは以下の文面です。 


 で、これらを踏まえたとしても、フェミニズムや反家父長制をテーマにてポリティカル・コレクトネスにも最大限配慮しているハズレであろう『バービー』が、肝心なところで他国民の悲劇や傷に無神経だった、と言う点*1こそが映画ファンが一番ガッカリしているところです。

 

 あと、「『#Barbenheimer』というミームは、そもそも原爆を揶揄したものではなく、映画業界の盛り上がりだ!」という擁護論も見かけましたが、それこそ関係がない話です。ネット上の盛り上がりなのは理解できますし、コロナ禍以降苦戦している映画業界が『バービー』と『オッペンハイマー』の特大ヒットのおかげで潤っているのは嬉しい話です。が、ネット人気の先に原爆をポップに扱うアートとか出始めたら、日本人としては神経を逆撫でされる人が出てきてもおかしくはないよね、という話です。逆に例えば日本のネットで慰安婦をポップにミーム化していたら、海外でどう思われるかは想像しなくてもわかりますよね?慰安婦問題と原爆問題は同列に扱われる話ではないことは分かっていますが、あくまで一例としてです。

 

 もう一つ、よく見るのが「大炎上している公式のツイートは7/21のものなのに、なんで今更怒っているの?」っていう話ですが、これも冷ややかな目で見るのはおかしい話です。だってこれは問題が起きた時に人々の目に留まるタイミングの話で、そして問題が発覚した時にはちゃんと声を上げるべき、って話でしかないです。ジャニーズの性加害問題だって大昔からあり、今批判の声が上がっていることに対して「なんで今更?」みたいなことを言い出す人がいましたが、じゃあいつまでも黙って見過ごすのか?って話じゃないですか。念のために言っておきますが、これも同列に扱われるべきでない話で、ジャニーズ問題はもっと根深く複雑なのは分かっていますが、例として書いてます。

 

 グレタ・ガーウィグは気鋭の作家で、彼女の作った作品は傑作ばかりで僕も大好きな作品ばかりです。その彼女がいよいよ大手メジャーに乗り出して『バービー』を作り、記録的なヒットを生み出しているのですから期待したり、応援したくなる気持ちはよく分かります。が、やっぱり明らかに問題がある時は声をあげるべきです。炎上が当初よりもだいぶ大きくなってきてしまったこと、いつの間にか当初の批判内容よりもネトウヨが入ってきたことによりイデオロギーや党派性を帯びてしまったことで炎上が複雑化し、ついつい根っこの問題がなんだったか見え辛くなってしまいますが、冷静に立ち止まって何が原因でここまで炎上したのか、よく見定めるべきです。

 

 ちなみにですが、今年で終戦後78年になります。被爆者の数も経年と共に減ってきた中で、原爆を茶化されて怒る人が多いのは、唯一の被爆国の国民の在り方としてよっぽど健全だと僕は思います。政治的に無関心な国民が多く、改憲論が叫ばれたりウクライナ侵攻で核使用が恐れられる中で、これは戦後教育が成功したことの一つだと思います。誰も起こらなくなった時こそ、僕は一番怖いと思います。

 

 長いブログの最後になりましたけど、僕は『バービー』も『オッペンハイマー』にも罪はないと思っていますし、両作品とも非常に楽しみにしています!ただ、日本公開の目処が立っていない『オッペンハイマー』はこれで余計に公開しづらい空気になってしまったのは残念でなりません。

 

余談① この問題は他国でも大きく報じられる事態になり、中国語が読める台湾人の嫁さん曰く親日的な台湾のSNSでは「日本人が怒る気持ちはわかる」とコメントが多く、逆に香港などのSNSでは「戦時中のバチが当たった」などと日本に対して冷ややかな感情を持ったコメントが多かったそうです。「Barbenheimer」という一つの事象をとってみても、国や国民によって見え方がまるで違っているのが難しいところです。日本が戦時中に負った悲劇を忘れてはいけないように、日本が他国に対して行った加害も忘れてはいけません。

 

余談② 僕がこのブログで取り上げるM氏は次のようにもツイートしていました。

えっと…どの口が言っているのでしょう?僕はDM事件も、園子温の性加害問題に対して氏が曖昧な態度を取り続けていたことを一生忘れていませんからね。

 

 

*1:ただ、話外れるけど、我々だって自分たちの関心の外にあることや、海の向こうで起きている出来事には無頓着で無配慮でダブルスタンダードだったりするので、『バービー』公式の問題ツイートは非常に人間的だなぁ、と思ったりもします。