「声」の剥奪/『クワイエット・プレイス: DAY 1』★★☆

 『クワイエット・プレイス』シリーズ最新作にして前日譚の『クワイエット・プレイス:DAY 1』を鑑賞。前2作で監督・主演を務めたジョン・クラシンスキーは今回は製作に回り、『PIG/ピッグ』のマイケル・サルノスキが代わりに監督・脚本を務める。主演はルピタ・ニョンゴ、共演にジョセフ・クイン、アレックス・ウルフ、ジャイモン・フンスーら。

 

 よもや続編が作られるとは思わなかった『クワイエット・プレイス』シリーズもこれで3作目である。「音を立てたら即死」というワンアイディアで生まれたはずだが、シリーズを追うごとにまだ見せ方/怖がらせ方のアイディアが尽きることがなく舌を巻く。突き詰めれば怪物から逃れるためにとあるゴール地点に向かうだけの話なのだが、その道程で何を見せるか・見せないかの取捨選択がうまく、サスペンスフルに最後までハラハラさせる。

 

 また、繰り返されるワンアイディアを最後まで飽きずに見れたのはドラマも優れているからであり、主人公のサム(ルピタ・ニョンゴ)が物語が始まった時点で既に末期癌患者というのが功を奏している。ドライに言ってしまえば、彼女は怪物に襲われようが襲われまいが、近いうちに死んでしまうことには変わらないのである。であるならば、この物語においてはどう死ぬかが大事であり、元々生きる希望も失った彼女が究極のサバイバルを通し、人生の輝きや意味を再発見することが主題になっているのが本作の素晴らしいところである。

 

 ところで、2024年公開作品として、日常が突如破壊され建物が瓦礫と化し、逃げ場のないマンハッタン島で圧倒的強者である怪物が虐殺されるのを見て、僕は否が応でもガザで現在起きていることを想起せざるを得なかった。特筆すべきなのは、音を立てたら殺されるという状況の中で市民達は「声」を奪われているということだ。「声」は健全な民主主義を維持する上で根幹を為すが、暴力的な怪物達が街を跋扈する中、「声」を上げる人間は殺され、生き延びるには「声」を押し殺して廃墟に隠れるしかない。もちろん、製作時期的に本作が今ガザで起きていることを反映している可能性は極めて低いとは思うが、どうしても連想せざるを得なかった。

 

 あとは猫が大変可愛かったなぁ…。