『レジスタンス』を観ればディズニー=ルーカス・フィルム体制の問題が見えてくる!?/『スター・ウォーズ レジスタンス』感想

  • 僕は今、放映順に『スター・ウォーズ』シリーズのアニメを追っていて、本日やっと『スター・ウォーズ レジスタンス』を観終わった。何度かTwitterでもブログでも書いてきたが、これが非常に問題のあるシリーズだった。僕が『レジスタンス』を観始めたのは8月で、わずか2シーズンしかない短いシリーズなのに、完走までに2ヶ月近くかかったことからもその問題っぷりが伺えよう。ちなみに、毎回観ているうちにいつの間にか寝落ちしていた。それくらい酷い。
  • レジスタンス』は『フォースの覚醒』より6ヶ月前の話で、新共和国が統治する泰安の世に暗い影を落とすファースト・オーダーを調査するため、共和国軍のパイロットであるカズーダ・ジオノ少年はポー・ダメダメロン*1リクルートされ、レジスタンス軍のスパイとして海洋惑星カスティロンに浮かぶ燃料補給ステーション「コロッサス」に潜入捜査する、というのが大まかなあらすじだ。
  • そしてこのシリーズで何よりもフラストレーションが溜まるのが主人公カズーダで、「スパイ」として潜入している癖に、なにかっちゃ甲高い声でギャーギャー叫んで騒いだり、すぐに怯えてビビったり落っこちたり何かの拍子に頭や足をぶつけて声を上げて敵に見つかったり、スパイのスの字も見当たらないくらいドジでマヌケで臆病でイライラするキャラクターなのだ。当のディズニーが公式で「叫ぶ/落ちるカズ カウント」という開き直りにもほどがある動画を出しているので、どれだけイライラさせるキャラクターか観て欲しい。

  • 前に記事に書いた*2が、前作『反乱者たち』の主人公エズラも気軽な行動ですぐに味方を危機に陥れる展開が多くてイライラしたが、あちらは勇ましさや若者ゆえの向こう見ずさからくるミスなので遥かにマシだった。カズも若さゆえの臆病さ、と言えなくもないのだが、だったらそんな奴をスパイなんかに任命すんなよ、と思ってしまう。
  • カズと引けを取らないくらいイライラさせるのが相棒のエンジニア、ニークだ。ニークはカダッサニクトの少年で、比喩やことわざ、言葉の綾も通じないほど全てを論理的に考える。ちょうど『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のドラックスと『スタートレック』のスポックを掛け合わせたようなキャラクターだが、ニークにはドラックスのような強靭な肉体も、スポックのような頼もしさもない。ニークはなにかっちゃ空気の読めない発言で周囲の会話やストーリー進行を邪魔するので、とにもかくにもイライラする。つまり『レジスタンス』はイライラする主人公と更にイライラする相棒が掛け合うフラストレーションが溜まりまくるシリーズなのだ。
  • キャラクターだけでなく、設定も謎だ。『フォースの覚醒』の冒頭では、まるで『新たなる希望』のように新共和国やレジスタンス軍が圧倒的に劣勢な状況が描かれていたが、その僅か半年前である『レジスタンス』ではファースト・オーダーは台頭してきたばかりの勢力で、カズとニークがおとぼけ漫才を繰り広げる余裕があるほど平和ボケした時代背景には拍子抜けした。新共和国はレジスタンス軍を快く思っていないような描写もあり、関係性がよく分からないのだ。(説明はされるが、腑に落ちるものではない)
  • これは『レジスタンス』というよりか、ハッキリ言ってディズニーに渡って以降のルーカス・フィルムのプランのなさが原因で、要するに帝国崩壊以後の銀河系のビジョンを全く固めることができなかったがために、説得力のある世界観を描写することができなかった。こうしたグダグダは『スカイウォーカーの夜明け』のパルパティーンのヘナチョコ復活劇にも繋がっている。また、ルーカスだったらこう言う背景こそ徹底的に詰めていっただろう。
  • ちなみに、『レジスタンス』シーズン1の後半と、シーズン2は『フォースの覚醒』以後の本編とリンクする作りになっている。流石にそのあたりの展開は少し熱く観れたが、逆に言うとMCU的なクロスオーバーありきで作っているために、先述した「6ヶ月前」という設定の違和感が浮かび上がってしまう。実に現代的なフランチャイズの構築の仕方であるとは言えるけども。
  • レジスタンス』は『反乱者たち』より更に低年齢化が進んでおり、基本的にレギュラーキャラクターは誰も死なない、というクソみたいな安心感がある。死んだとしても、そのエピソードにポッと出てきた顔も名前も知らないレジスタンスが乗ったシャトルが追撃されるくらいで、戦争の悲劇を視聴者の子供に教えるためだけに作られた展開なので、逆説的に戦争の悲劇が伝わりづらくなってしまっている。この辺りと比べても、容赦のなかった『反乱者たち』はずっとマシだった。
  • また、子ども向けにしているためか『レジスタンス』で主人公たちがストームトルーパーを撃つときはスタンモードになっており、直接的な殺人描写のないヌルゲー仕様になっている戦争ナメてんのか!
  • そして、『レジスタンス』のカズがどれだけヘマを犯しても毎回味方は誰も死なずにファースト・オーダー軍をやっつけるので、ファースト・オーダーがマヌケ集団にしか見えない。
  • 書いていて思ったが、案外これは結構大事なポイントかもしれず、『クローン・ウォーズ』でも分離主義者勢力よりは共和国軍の勝利が多く描かれていたし、『反乱者たち』でも帝国は僅か5人と1体のゴースト小隊に負け続けた。スター・ウォーズ』のスピンオフ作品が今後作られれば作られていくほど、映画の中では恐ろしかった帝国軍や分離主義勢力、ファースト・オーダーの小物感が増していってしまうのだ。やはり作品間の隙間は公式が埋めるものではなく、ファンの脳内で補完したいものだ。*3

  • あと、これは『反乱者たち』の感想でも書いたけども、デイブ・フィローニはジブリオマージュが過ぎる。
  • また、ファンの間でも賛否両論を呼んだ2Dっぽく見える作風だけれども、確かに最初は気持ち悪いけれど、慣れればまあなんとか許せるレベル。ちなみに『レジスタンス』を作ったプロダクションはクソつまんないアニメ版『GODZILLA』三部作を作ったポリゴン・ピクチュアズ*4で、確かに作風がソックリ。
  • なお、『レジスタンス』にも悪いところばかりではなく、主人公チームの一員であるタムが銀河内戦を知らない世代であるが故に、ファースト・オーダーが銀河に治安をもたらしてくれる正義の組織に見えてしまい、自ら進んで参加するようになった展開は、これまでの『SW』世界でもなかった描写でよかった。もう少しこういった側面を見せてくれたら良かったのに…。そういったディテールこそが『クローン・ウォーズ』や『反乱者たち』を面白いシリーズにしたのだから。
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*1:これ、書き終わった後に気が付いたが、嫌味ではなく素で「ポー・ダメダメロン」と書いてしまっていたが、気持ち的にはダメダメロンなので修正せずにそのままで行きます。

*2:

 

*3:さらにいうと、これは『フォースの覚醒』制作ニュースができた時から僕はいっているが、シークエルは『ジェダイの帰還』のラストシーンをぶち壊した時点で罪深く、ジェダイ・オーダーや共和国再建に失敗したルーク、レイア、ハンたちがマヌケに見えてしまうのも許しがたい。が、ディズニーがお金を得続ける限り、銀河に平安は訪れない…。

*4:なお、これは忘れずに触れておきたいが、『クローン・ウォーズ』もポリゴン・ピクチャアズ製アニメであるので、あの2Dアニメ風の画の全てをポリゴン・ピクチャアズの責任だとは思わない。

今週のお題「好きなおやつ」

 久しぶりに仕事がない日々が続いており、書くことが思いつかないので、今週のお題ポチッとな。

 

今週のお題「好きなおやつ」

 

 オンライン飲み会で語ったこともありますが、僕はアルフォートジャンキーでして、常にアルフォートが冷蔵庫に入っています。冷えたアルフォートを歯で割る感覚がたまりません。いつも204g入りのアルフォートを買うのですが、1日半も経てば全部なくなってるので、この業務用を買おうか迷っております。 

 

 しかしですね、最近は山崎製パンまるごとバナナにも少し浮気しつつあります。あのボリュームはちょっと犯罪的ですらあります。大体200円くらいで変えてしまうのも罪深く、無性に食べたくなる時がありますから、この安さでこの中毒性はまるで危険ドラッグと一緒じゃないですか!規制すべし!

 

 冗談はさておいてですね、アメリカから帰ってきてよかったことの一つに、日本はお菓子やおやつがべらぼうに安くて美味い、というのはあります。せっかく帰ってから5kg痩せたのに、参っちゃうな〜。

米露宇宙競争再び!

 トム・クルーズは中々クレイジーな役者で、前人未到のアクションを追い求めるうちに、来年にダグ・リーマンとの新作で遂には史上初めて宇宙空間に飛び出すことはすでにニュースになりましたが。

 

 なんと、ロシア映画業界も宇宙で映画を来年秋に撮影しようとしていることが明らかになりました!

 

 かつて60年代には米ソ間で宇宙開発競争が繰り広げられ、その模様を我々は教科書で習ったり『ドリーム』や『ファースト・マン』みたいに映画で学んだりしたわけですが、よもや戦場を映画撮影に変えて再び米露が宇宙開発に競い合うとは思ってもいなかったので胸熱です。

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 かたや、トム・クルーズはこのニュースを聞いて、『トロピック・サンダー』みたいに激怒しているんじゃないでしょうか。いやー、宇宙に行くトムクルをみるのが楽しみです!

史上最もノーランらしい映画が、映画業界を復活させた!/『TENET テネット』★★★

 世界中の映画ファン待望クリストファー・ノーラン最新作『TENET テネット』をグランドシネマサンシャインIMAXレーザーGTで鑑賞。ノーランは監督の他に脚本と妻のエマ・トンプソンと共に制作も勤める。撮影監督は『インターステラー』『ダンケルク』に引き続いてホイテ・ヴァン・ホイテマ、音楽はノーラン組としては初参戦のルドヴィグ・ゴランソン。主演は『ブラック・クランズマン』のジョン・デヴィッド・ワシントン、共演に『グッド・タイム』ロバート・パディンソン、『ロスト・マネー 偽りの報酬』エリザベス・デビッキ、『オリエント急行殺人事件ケネス・ブラナー、そしてノーラン映画のミューズ マイケル・ケイン

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 先日、「『フォロウィング』から予想する『テネット』」という題の記事を書いたが、その中で僕はこんなことを書いた。

 以上から察するに、『テネット』は「時間」をテーマに、スパイ映画らしさフィルム・ノワールのルックをふんだんに盛り込んで、主人公が自らを超越した「強大な力」によって「運命」を握られる映画になるのであろう。

(中略)

最後にもう一つ予想を立てるのであれば、『テネット』は「見終わった時は勢いとアイディアに衝撃を受けるのだが、後から冷静になってよくよく考えてみたり、繰り返し見ると作劇に粗が目立つものの、なんだかんだでやっぱり好き」な映画になるんじゃないかなぁ、と予想する。

 

 さて、待ちに待った『TENET テネット』に臨んだが、我ながら自分が全く書いた通りになるとは思わなかった。『TENET テネット』でノーラン通算11本目の長編監督作になり、スタッフもだいぶ入れ替わってきたが、これまでで一番ノーランらしさが濃い作品になった。

 

 そもそも予告の段階で(i)「時間」の逆行がテーマになることは明白だったのでおいておくとして、今回は特に(ii)スパイ映画への愛が光った。ジョン・デヴィッド・ワシントンが演じる「主人公*1」はそもそもCIA職員で、そのうちTENETという組織にリクルートされ、第三次世界大戦を阻止するための任務に就く。

 

 第三次世界大戦」というキーワードのいい意味でのバカっぷりロジャー・ムーア時代の『007』を想起させ、世界を救うために世界の観光名所を回るのもさながらボンド映画。もちろん、逆バンジージャンプや時間逆行トンネルなど素敵ギミックもそのイメージを強化させる。

 

 ちなみに、好きな映画ではあるが『ダークナイトライジング』でロシアの物理学者と核兵器が出てきた時に「2010年代にもなって米ソ冷戦かよ」とガッカリした記憶がある。今回の『TENET テネット』でも核兵器が関わっていて、ロシア人の敵役をイギリス人のケネス・ブラナーがコテコテのロシア訛り英語で演じている分*2、余計にステレオティピカルな悪人像が出来上がってしまっているものの、これはリアリティやポリティカリーコレクトネスよりも、ノーランのボンド映画への憧憬からきているのだと考えると納得がいく。ノーランの頭の中では一生米ソ冷戦が繰り広げられているし、それでいいのだ。

 

 各所で批判されていることではあるが、今回の演じる登場人物はやや型にはまり過ぎているきらいはある。先ほども言ったように主人公には名前がないばかりか背景もドラマも葛藤もないし、敵もステレオタイプの塊で、ヒロインも金髪美女である、以外にキャラクターがない。しかし、この影ある金髪美女もノーランの大好きな(iii)フィルム・ノワールからの引用だと考えれば合点がいき、『TENET テネット』はノーランが好きなものを詰め込んだ上で、無駄なものを徹底的に省いているため、非常に抽象度の高い作品に仕上がっているとも言え、だからこそノーラン映画らしさがいつもに増して強い。

 

 そして、これぞノーラン映画の真骨頂だと思ったが、(iv)既に物語が始まった時点で「運命」は決まっているのである。劇中でも「タイムパラドックス」や「祖父殺しのパラドックス」などを持ち出して予防線を張っていたが、側から見れば劇中内の出来事は見事に永遠にループしている。前に記事に書いたように、ノーランはこの円環構造を『Doodlebug』の頃から繰り返しており、今後も一生描き続けるモチーフになるのだろう。

 

 ノーランは執心的なほどにフィルム原理主義者・劇場主義で、IMAXカメラで撮影したこだわりのアクションシーンや、時間の逆行というアイディアに説得力を持たせるためのプラクティカル・エフェクトや編集、生のセリフ音が聞こえないくらいのド迫力の音響には大きな満足感を得られる。しかし、冷静になって考えると(iv)なんだか話はえらく粗くてツッコミどころは多かった気がする。

 

 というか鑑賞中、頻繁に「今なぜこのミッションに挑んでいるのか」よく分からなくなることがある。しかも失敗しているにも関わらず何事もなかったかのように話が進んでいて仰天するが、冒頭でしっかりと「考えるな、感じろ」というブルース・リー御大の究極のアンサーが述べられていたので、もう言われるがままに楽しむことにした。そしてこれもノーラン映画の凄いところだと思うのだが、どんだけ話が複雑(そして粗く)でも、観客はプロットやコンセプトをしっかりと理解できる。ノーランが今時珍しい名前で集客できる名監督になったのも、この部分が非常に大きいのではないだろうか。

 

 最後に、コロナ禍で映画業界は一度死んだ。僕もコロナ中に『ザ・ルーム』を公開したけれども思っていたようにうまくいかなかったし、ソーシャル・ディスタンスの為に席を減らされた劇場で観る映画の物足りなさったら無かった。しかし、日本ではついに先週末より映画館での座席数50%制限は取り払われ*3『TENET テネット』はフルキャパシティで興業することができ、今日なんかは平日昼の回だというのにほぼ満席で驚いたものだ。

 

 まるで時間が逆行したかのようにかつての活気が戻ってきただけで嬉しかったし、僕は『TENET テネット』に非常に満足して劇場を後にすることができた。世界各国でも映画館が再開し始め、その記念すべき一発目として『TENET テネット』が公開されており、劇場主義を掲げるノーランにとっても印象深い作品になったんじゃないかな。ノーラン映画最高!

 

*1:エンドロールの役名でもProtagonist(主人公)だった。

*2:ちなみに、ケネス・ブラナーは自ら監督した『エージャント:ライアン』でもコテッコテのロシア人の悪役を演じていた。あの作品も今更ロシアが核がどーのこーの言っていてすごく冷めた。

*3:実際には、全席解放する劇場は場内飲食禁止で、逆に座席数を50%制限のままにする場合は場内で飲食できる。飲食物や物販が映画館にとっては最大の収入源なので、これからも劇場の苦悩は続くのだろうなぁ……