多様性への希望/『ズートピア』★★★

 ディズニー・アニメーション・スタジオ最新作『ズートピア』を鑑賞。監督は『シュガー・ラッシュ』のリッチ・ムーアと『ボルト』のバイロン・ハワード、声の出演はジェニファー・グッドウィン、ジェイソン・ベイトマン、JKシモンズ、イドリス・エルバなど。音楽はマイケル・ジアッキーノ、主題歌はシャキーラが「Try Everything」を歌う。

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 動物たちが「捕食動物」と「被食動物」が区分なく、同じ動物として暮らすように進化した近未来世界。田舎町のバニーバロー出身のウサギ、ジュディー・ホップス(ジェニファー・グッドマン)は幼い頃からの夢を努力の末に叶え、大都会「ズートピア」史上初のウサギ警官となる。張り切るホップスだったが、バッファローのボゴ署長(イドリス・エルバ)にその能力を疑われ、駐車違反の取締りに回される。張り切りが空回りするホップスは、更に勤務中に出会った詐欺師のキツネ ニック(ジェイソン・ベイトマン)から「ズートピアでは自分以上のものにはなれない」という辛い現実を勤務初日から教えられてしまう。

 

 一方で、ズートピアでは14匹の行方不明動物事件が解決されないままでいた。カワウソのオッターソンさんの旦那もそのうちの一人であり、正義真の強いジュディーは捜査に身を乗り出すも、ジュディーを煩わしく思うボゴ署長はクビと引き換えに48時間以内に探し出すことを条件に許可する。現場に残されたたった1枚の写真からジュディーは、最初の重要参考人がニックであることを探し出す。

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動物の擬人化といえばディズニーが最初期からやってきたお家芸である*1が、動物の擬人化は個性を強くするためにはうってつけの手法であるため、ステレオタイプが反映されてしまうことが多々あった。例えば有名なのは『ダンボ』に出てくる意地悪で怠け者なカラスたちで、カラス=黒、という安易な発想で明らかに黒人たちを意識しており、ご丁寧に南部黒人英語訛りで話している。ついでに言うとリーダー格のカラス(Crow)はジムで、黒人排斥法のジム・クロウ法をギャグにしてしまっている。

 

 人種描写への配慮の欠如はディズニー作品が長く抱えてきた問題であり、「スプラッシュマウンテン」の元ネタとなった『南部の唄』は人権団体の反対により製作から70年経った今も未だにソフト化されていない。傑作を連発した90年代のディズニー第1ルネサンス期においても、『ポカホンタス』『アラジン』『ムーラン』といった非欧米文化を舞台にした作品を発表するも、やはり型に当てはめた描写もあるため作品を発表するたびに各人種の人権団体から抗議を受けた。

 

 しかし、2000年代後半に始まる第二ルネサンス期のディズニーは一気にリベラル化する。『プリンセスと魔法のキス』では史上初めての黒人プリセンスが誕生し、『塔の上のラプンツェル』ではプリンセスはただ王子を待つだけの存在ではなくなった。『アナと雪の女王』は同性愛者の苦しみのメタファーとも言われ、『ベイマックス』のヒーローチームは見事に多人種混成チームとなっている。

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 そしてディズニーの原点とも言える動物の擬人化路線に戻った『ズートピア』では、「差別」*2や「偏見」といった強烈な問題に真っ向から取り組む。人間でいうならば骨格や肌の色の違いは、動物というキャラに当てはめるが故に差が強調され、明確に「個人間には違いがある」ということを子供達に教える。末恐ろしいのは、ともすれば「その個人ではどうすることもできない違いが、社会では大きな壁になる」という現実の問題を思いっきり叩きつけている点である。*3

 

 だが、個人それぞれが個性的な違いを持っているからこそ、そんな「差別」や「偏見」だらけの世の中を良く変えられる、とディズニーは訴える。このストレートかつ強力なメッセージが、ドナルド・トランプ関連でアメリカに絶望しかかっている今だからこそ響き、こうした作品を完成度の高い娯楽作品として作り出せる*4ところが他民族国家アメリカ文化の底力であり、豊かさであり、希望である。

   

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*1:そもそもそのディズニーを代表するキャラクター自体がミッキー・マウスである。

*2:僕が「この映画本気だ!」と思ったのは次のやり取り。

Judy Hopps:Excuse me... Down here... Hi.
Clawhauser: O. M. Goodness, they really did hire a bunny. Ho-whop! I gotta tell you, you're even cuter than I thought you'd be.
Judy Hopps: Ooh, ah, you probably didn't know, but a bunny can call another bunny 'cute', but when other animals do it, that's a little...

これ、つまりズートピアの世界では「cute」って単語は人間世界でいう「Nigger」と同じ意味になってるの!

*3:また、非差別者のジュディーが差別の辛さが分かるからこそ動物をステレオタイプにはめるのを避けようとするが、無意識のうちに差別意識を持ってしまっているある種偽善的なキャラとして描いてるもの巧みだ。ジュディーの犯したある小さなミスにより、ズートピアの多様性が失われていく展開にはハッとさせられた。

*4:なお、こんなお固い話ってだけでなく、『ズートピア』は映画オマージュギャグに満ちている点もツボである。予告編にもあった『ゴッドファーザー』はもちろん、まさか東宝怪獣映画もでてくるとは!