アメリカの劇場で『君の名は。』を観てきた。/『君の名は。』★★☆

 日本で社会現象となった『君の名は。』がようやくアメリカでも一般公開。『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などの新海誠監督作品。作画監督・キャラクターデザインにジブリ作品の安藤雅司、音楽はRADWIMPS神木隆之介上白石萌音長澤まさみ市原悦子らが声優を務める。

 

 日本公開から半年以上経ち、もう語り残された点もほぼ無いと思うので、今回は箇条書きスタイルで。ネタバレもしています。

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君の名は。』が北米上陸するまで

  • 個人的には秒速5センチメートル』が苦手だったので、新海誠作品にはあまり興味がなかった。しかし、昨年海を隔てて伝え聞く『君の名は。』現象には嫌でも興味が湧いたし、日本から遊びにきた友人の断片的な話を聞いて勝手に内容を妄想したりもした。
  • 昨年秋に『シン・ゴジラ』を劇場鑑賞した際に流れた予告編で『君の名は。』が北米でも公開されることを知り、それから半年間期待値が日に日にガンガン膨れ上がっていった。春休みに行ったハワイからの帰りの飛行機で『君の名は。』が機内上映されていても「これだけ待ったんだから絶対に劇場で観る!」と我慢したほどだった。
  • 前にもブログに書いたが、『君の名は。』がアメリカで公開されることには『スター・ウォーズ』が1977年に公開された際、公開が1年先だった日本の映画ファンはただ海外から伝え聞く情報のみであれこれ妄想し、1978年に満を辞して劇場に足を運んだことを思い出したりしていた。
  • ところがどっこい。当然ど田舎である留学先の劇場では公開されないのみならず、一番近くの公開館(車で1時間20分)があるメンフィスではなんと英語吹き替え版しか上映されない!これだけ待ったのにこの仕打ちはねーよ…ということで、色々考えた結果、車で4時間離れたテネシー州ナッシュビルでの鑑賞旅行を決行した。この辺りは先日ブログに書いたのでこちらを是非*1

君の名は。』を観たナッシュビルの観客の反応

  • ナッシュビル到着当日はダウンタウンで飲み歩いていたので、翌日の最初の回を鑑賞。鑑賞場所は巨大なショピングモール オプリー・ミルズに併設されているリーガルシネマズ。
  • 観客の数は正直言って僕たちを含めて10人程度。昼の回・字幕版ということもあるんだろうが、『シン・ゴジラ』を鑑賞した際は3回とも客席が埋まるほど賑わっていたので少し拍子抜けした。ただし、Twitterを見てるとニューヨークなどでは満員に近い劇場もあった模様で、『千と千尋の神隠し』の北米上映時と比べて興行も良かったとの報道もある*2
  • 進撃の巨人』『シン・ゴジラ』『君の名は。』もFunimationという会社が配給を行なっており、毎回上映前にFunimationが買い付けた公開予定の邦画作品の予告編が流れるのがお約束だが、なんと次回のFunimation作品は『黒執事 Book of the Atlantic』!アメリカにいると意外なアニメ作品が人気であることを知って毎度驚かされる。
  • 人数が少ない分、何故か邦画が上映される際多くなるマナーの悪い輩がいないのは良かった。ただし、きちんと笑いを取りに行ってる場面ではちゃんと笑いが起きていた。特に泣きながらおっぱい揉んでるところは爆笑
  • 口噛み酒を作っているシーンでは「Eww(ウゲェ…)」とちょっとした悲鳴が漏れていた。僕は後半それを瀧くんが飲むシーンでウゲェ…と思った。
  • クライマックスで三葉ちゃんが盛大に転ぶところで誰かが「Oh my god...」と呟いていたけど、確かにあそこの作画は凄まじかった。これぞ日本のアニメーションの真髄だと思う。
  • 人数は少なかったが概ね暖かい反応ばかりで、数名パラパラと拍手している人がいた。拍手の数が増えなかったのは残念だったけど。
  • 日本では英語字幕版が流れた際、歌は全て英語版に差し替えられていたそうだが、こちらの英語字幕版は普通に日本語の歌が流れていました。最初の曲とエンディング曲は字幕翻訳までされていた。

僕が観た『君の名は。

  • 開幕、エモいモノローグで始まったので「ウゲェ、新海誠色全開だ…」と身構えていたけど、今回は監督が公言している通りグッとエンタメに寄せてあってとても観やすかった。なおかつ新海誠の作家性とも両立させていたので、絶妙なバランスだった。RADWIMPSの使い方が相変わらずMV的ではあったものの、それも『秒速5センチメートル』の山崎まさよしよりはマシだった。
  • テンポは速いが、情報の交通整理がキチンとされてあるので入れ替わり物ではあるものの混乱しにくい。なおかつ、疾走感が二人の青春に直結しているのが気持ちよく、二人が大人になってからスピードが落ちるのは理にかなっている。
  • ちなみにこの疾走感が先述したツッコミどころを気にならなくさせるのに一役買っていると思う。
  • やっぱり画の緻密さに見入ってしまう。実写でもそうだが、一コマ一コマに手間ひまかけられている映画は無条件に感動するし、アニメーションは制作手法上ことさらそれが強調される。『君の名は。』に至ってはその美麗さだけで涙腺が緩んだほどだ。嫌いだった『秒速5センチメートル』も劇場で見たら印象が変わっていたのかもなぁ。
  • 個人的な体験と結びつけると、片田舎から苦労してやってきて、前日夜遅くまでネオンが光るナッシュビルダウンタウンで飲み歩きながら「ここに住みてー!」と仲間内でクダを巻いていたので、「来世は東京のイケメン男子にしてくださーい!」と叫ぶ三葉ちゃんに感情移入して仕方がなかった。また、首都圏からアメリカのクソ田舎に留学して色々カルチャーギャップに悩まされている現状もさながら三葉ちゃんと入れ替わる瀧くんの心境である。
  • 気になったのは母親の不在だ。宮水家は病死したことが明かされるが、立花家は不在をほのめかすだけで詳細は描かれない。ただ、一般に母親は子供の変化に敏感なので、多分二人が入れ替わっていたらすぐに気づくだろう。物語の都合上邪魔だったのかもしれない。
  • またまた個人的な話をすると、僕は父親とは全くウマが合わない。このあいだの春休みもせっかく1年ぶりに会ったのに大げんかをしてしまったほどだ。いつも僕と父との間の取り持ってくれているのは母である。母親は子供と父親の架け橋として機能しているのかもしれない。だから三葉と父親の壊れかけた関係に焦点を当てた『君の名は。』においてやっぱり機能的に母親はいらないのだ。でもそうしたら瀧くんサイドも何かしらの事情をもっと見せて欲しかったな…。
  • 瀧くんがデートで何喋っていいかわからないところは自分の人生初デートを、就活でダメダメな様子を呈していたのは自分が就活していた時を思い出して「ウッ…」となった。そういやさっきから「三葉ちゃん」「瀧くん」と自然と敬称つけて呼んでしまうのも、こういったあるある描写がリアルだから親しみを呼びやすいのかもしれない。
  • 日本人なら誰もが彗星を震災を想起するが、一緒に見に言った友達の一人(アイルランド人)は気付いていなかった。いかに震災の体験が日本人の意識に刷り込まれているかが分かる。ちなみに去年『君の名は。』と共に大きな話題を呼んだ『シン・ゴジラ』も311を扱った作品であった。ただし、『シン・ゴジラ』は実際の震災と同じように多くの人が死に、その犠牲を乗り越えた上での未来への希望を描く。一方で『君の名は。』は震災(彗星)被害そのものを改変して完全なるハッピーエンドに帰着する。震災をモチーフにしつつも扱いが全く異なるこの2作品が大ヒットしたことは興味深い。
  • ツッコミどころがないわけではないが、そこらへんは散々ネットで挙げられてるのでここではいちいち指摘しない。色々書いたけれども、片道4時間かけてこの映画を観に言った価値は大いにあったし、僕は大満足でした。『進撃の巨人』『ヘイトフル・エイト』『シン・ゴジラ』『キングコング 髑髏島の巨人』『君の名は。』と、苦労と時間をかけて観に行った映画に対しては大甘になる傾向がありますな。

 

君の名は。(通常盤)

君の名は。(通常盤)

 

 

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