コロナ禍が襲う2021年夏映画6本感想ノック

 去年の緊急事態宣言時が冗談だったかのように感染状況がとんでもないことになっている今日この頃、僕は思いましたいつ映画館が閉まってもおかしくないな、と。そしてこれまた大変なことに、アメリカの映画市場が正常化してきてしまったので、今夏は次々と面白い作品が輸入されているのです。

 

 ここ最近忙しく、溜まってしまった新作映画もありましたが、こうなったら映画館が閉まるのが先か僕がコロナに罹ってしまうのが先か新作映画が終わってしまうのが先か、のデッドヒートレースになっていて、もう新作映画を一気に消化するならこのタイミングしかないと思い、木曜日(12日)から土曜日(14日)にかけて、3日間毎日徒歩往復1時間をかけて近所の映画館に通う試練を人知れず行っていました。

 

 一昨日は1本、昨日は2本、本日は3本と、日に日に難易度も上がってきて、後半はお尻も痛くなってきたりして、大好きな映画鑑賞のはずが何故か苦行のようになっていましたが、見事これをやりきりましたので、その全6作品の短文感想をノックしていきたいと思います。

 

木曜日

・『イン・ザ・ハイツ』

 感想は先日書いたので、いきなり割愛。とにもかくにもトイレが辛くて、ド頭から謎に修行を押し付けられている感があった。 

 

金曜日

・『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』

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 いつも「一生続いて良い世界で唯一の映画シリーズ」なんて冗談を言っていた一方で、とはいえ9作品も重ねると毎度「なんだか遠くまで来てしまったなぁ…」と呆然したが、今回はしっかりと「一応カーレースがベースなんですよ!」という教えてくれる作りが丁寧で良かった。まあ、それも結局関係なくなるんですけどね!

 

 『007』や『m:i』シリーズが真面目路線に突っ走る中、いまや一番荒唐無稽なスパイアクションの伝統を継いでいる。僕が苦手だった『スーパーコンボ』が強化人間というウルトラC級で一戦を超えてしまったため、『ジェットブレイク』の車でターザンとか、超電磁力平気とか、車で大気圏突入とかが、割と地に足ついた描写に感じてしまうなど、リアリティラインの遠近感バグを引き起こしてしまっている。あと、途中やけに『SW』ギャグがしつこかったと思うんだけども、まさか宇宙に行くからとかじゃないよね…?

 

 宣伝で謳われている通り、ハンが復活するからか『X3 TOKYO DRIFT』ネタが多いのが嬉しい。が、再登場したキャラの老け方とか、新キャラの設定とか、時間軸がおかしなことになってないか?整合性という点では、『X3』はMCUにおける『ホームカミング』並みの問題児。

 

・『ジャングル・クルーズ』

 これまた昨日感想書いたので、今日は割愛。でも本当に良かったので、オススメ。同日に見たこっちが良かったので、『ジェットブレイク』の評価を下方修正をせざるを得なかったくらい。奇しくもドウェイン・ジョンソン出てるし。 

 

土曜日

・『フリーガイ』

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 自由意志と、デジタル空間について。『竜そば』の問題点が全てここで解決されている。ライアン・レイノルズがいつも通りデッドプールしてるだけの映画だと思っていたけど(まあ、いつも通りデッドプールしているんだけど)、これは思わぬ収穫だった。仮想空間だろうと、AIだろうと、そこで得た感情や経験はリアルなものである、というのは大事。あと、『LEGO®︎ムービー』と同じく、毎日同じことを繰り返している人間は毎朝行きつけのお店でコーヒーを注文しているのが興味深い。

 

 ディズニー資本だけれど、シットやファックが抑え目ながらも発せられているのが興味深かった。ただし、その使い所は必要なタイミングにだけ使う計算高さも垣間見え、この企業っぽさが逆説的に非常にディズニーっぽい…。好き勝手色々と買収してるけど、『デッドプール3』が実現できるのか、ライアン・レイノルズに「試されているわね、私たち(ディズニー)」といった具合か。

 

 ただ、むやみやたらにカスワードを使っているのではなく、ガイの自我が芽生えていくにつれて口調が悪くなっていくのが、単なるAIから脱却して人間っぽさが出てくる表現として見事に機能していて、脚本が素晴らしいと思った。余談だけど、留学中によく「日本語にカスワードはないの?」って聞かれて、「あってもクソくらいだよ」って答えたら、「ファックを使わずにどうやって会話できるの?」って驚かれたな。

 

 『フリーガイ』はとても良い映画だったけれど、とある場面でディズニーがモノポリー的に占有したIPを使用するギャグは非常に冷めた。パロディといより見せびらかしになっていて全然機能していない。『シュガー・ラッシュ:オンライン』の嫌らしさを思い出したね。

 

 

・ ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結 

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 いやー、凄まじかった。ジェームズ・ガン大暴れ。集められている連中は悪人だらけなので、PCがないのもとても良かった。こんなにヌチョヌチョ人が死んでいくのに、笑いが耐え無いのは悪趣味もいいところ(って、僕もか)。

 

 冒頭からして誰が死ぬのか全く予想がつかず、その後に続くオープニング・クレジットで既に死んで退場した役者の名前が堂々と登場するのは新手のギャグでこれも笑った。そしてタイトルがデカデカと出すのはバカカッコよくて素晴らしい。ジェームズ・ガンは毎回オープニングがうまい。

 

 で、今回の『スースク』は可愛い可愛いサメ人間(cv:スライ)が出てくることもあって、連想させる映画がレニー・ハーリンの『ディープ・ブルー』なんですよ。誰が死ぬか分からないのに、誰もが死亡フラグみたいなことを言い出すので、なんてことないシーンでも勝手にドキドキしてしまって全編緊張感がある。

 

 僕は怪獣やモンスターは何某かの象徴であるべきだと思っているのだが、予告編にも登場する「カイジュウ」は米ソ冷戦時代にアメリカが中南米で好き勝手やっていた闇が託されていて、破壊スペクタクルも含めて『ゴジラVSコング』よか今回の『スースク』の方がよっぽど怪獣映画をしていると思った。タスクフォースXもコンセプトとして「反米的」というのもミソだしね。

 

 すごい好きだったんだけど、僕個人は大好きだった前作の『スーサイド・スクワッド』からあまりにも変わっていて、ちょっと一抹の寂しさを覚えてしまった。ただし、エンドクレジットの最後に「映画制作者たちからのサンクス」で、一番最初に上がっていた名前がデビッド・エアーだったので、なんだか救われた気持ちになった。

 

ドント・ブリーズ2

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 『クワイエット・プレイス2』みたいに「えー、今更続編とかいらないでしょ?」と思っていたら、そしてその『クワイエット・プレイス2』みたいに「ああ、この路線だったらアリだね!」と納得させられた。我々が前作で目撃した倫理的に頭おかしい人の前に、更に倫理的に頭おかしい人たちを出すことで、前作のヤバい人を共感し得る主人公に変えてしまう離れ業。

 

 前作の追う側から本作では追われる側へ回るが、しかしやはり天性の殺しの才能があり、前作で人々を震え上がらせた察知能力で悪役たちを結局は追い詰めるので、彼らが気の毒になってくる。『ランボー/ラスト・ブラッド』しかり、『ハロウィン』しかり、隠居したご老人たちが家中に隠れ家やブービートラップ仕掛けるのは最近の流行りか!

 

 『ドント・ブリーズ2』のクライマックスにすごく既視感を覚えるが、『イット・フォローズ』とそっくりなのだ。財政破綻で廃墟だらけになったデトロイトの街並みを舞台として駆使したデトロイト・ホラー映画の系譜を感じる。

 

 ただし、『ドント・ブリーズ2』の主撮影が行われたのはセルビア。エンドロール見て驚いたのは「新型コロナコンプライアンス係(COVID Compliance Office)*1」という役職があったこと。今現在ハリウッドでは静的なシーンを撮影する際にはインティマシー・コーディネーターという専門職を雇っていると聞くが、仕事が増えようと現場のキャスト・スタッフを守るために専門家を入れる姿勢は素晴らしい。

 

全部見終えて

 いやー、疲れましたが、今回は面白い映画ばかりだったので、チャレンジして損はなかったと思いました。今回6本の作品中、4本の映画にポストクレジットシーンがあり、なんならポストクレジットが必要なさそうな映画までついていて、これは現代映画的な病理を感じました。

 

 最後に、コロナ禍での映画鑑賞について、今から書くことは完全にダブルスタンダードなので、批判されるのを覚悟で言いますが、この3日間映画館に通って思ったのは、正直に言って、このご時世に映画館に行くのはやっぱり怖いです。

 

 後ろや隣の席で咳など聞こえてくると、やはり中々映画に集中できないし、今まで我々映画ファンや業界は「映画館は換気がしっかりしているし、三密の『密閉』に当てはまらないから」という理屈を盾に映画館を守ろうとしてきましたし、事実としてクラスターも今のところ起きていないですが、果たして今まで通りの感染対策では制御が難しいとされる、デルタ株を前にしても本当に同じことが言えるのか、アップデートされた情報が中々見受けられません。今一度、劇場の安全性をアピールするために、あるいは正常化に向けて戦略を立てるためにも、業界が先導して研究するべきだと思うんですよね。

 

 しかし一方で、やはり映画ファンとしてはどんな状況だろうと映画館に通いたい。これだけの感染者数が出ている中、遊びに出かけている人に対して「やーねー」と後ろ指を指している一方で、自分は後ろめたい気持ちを押し殺しながら映画館に向かう。これ、何かに見覚えがあると思ったら、ヘビースモーカーにタバコを止めるように言う時と似てるんですよね。愛煙家たちがタバコ抜きで生きられないように、我々映画ファンも映画館に行かずして生きられないんですよ。

 

 ただ、感染数が感染数だけに、段々趣味を押し通してる場合じゃなくなってきましたし、そもそも映画館に足を運ぶのにも勇気が必要となってきた一方で、経済的に困窮する劇場や映画業界も救いたい。ファンも、作り手も、興行する側も、映画を愛する人たち全員が歯痒い思いをして毎日を送っていると思うんですけど、残念ながらこの状況はしばらく続きそうです。

 

 せめて、感染者数を減らす気があるんだったら短期間で徹底的にロックダウンするなど、僕たちも協力するので上の連中に明確なプランがあるといいんですけど…。みなさん、選挙はちゃんといきましょう!僕も改めて日々気をつけて生活します!

 

*1:これ、TwitterだとCOVID Protection Officerとつぶやいていましたが、IMDbを見たら間違えていました。すみません!