日本の映像業界は「金がない」を言い訳にするのはやめてほしい

 本日、アメリカでDP(撮影監督)やっていた知人が日本に帰ってきたということで、久方ぶりにお会いしたのですが、アメリカの撮影現場のコロナ対策の話を聞いて、その本気度にはビックリしましたね。以前、僕が『ドント・ブリーズ2』を観た時にエンドロールで「COVIDコンプライアンス・オフィサー」という役職を見つけて感心したという話をしましたが、予算のある現場ではなんと看護師を雇い、セットで毎日PCR検査を実施するようです。

 

 『ドント・ブリーズ2』には「COVIDプロダクション・アシスタント」という役職も見かけたので、おそらく彼らは撮影に滞りなくクルーやキャストに検査を行うためのロジスティックを現場で構築していることが想像され、つまりコロナをコントロールすることも撮影現場の管理に組み込まれているんですね。ここまで金の払えない現場でも、事前のワクチン接種や毎週のPCR検査を義務付けたり、そして検査を受けに行く日は稼働日ということで、ギャラ半日分の手当が支給されるとのことでした。

 

 更に予算のない現場では、ただ単に体温チェックを報告するだけで終わってしまうそうですが、これは最早日本の現場では最も一般的です。僕は以前、日本の撮影現場のコロナコントロールのナアナアさを批判しましたが、トドのつまり、やはり日本の現場には恒常的に「金がない」ので、感染対策まで手を回す余裕がないことが根本的な原因だと思います。

 

 そういや、僕はTV以外の撮影仕事*1で、香盤表通りに終わった現場を見たことがありません。そして、事前に聞いていた時間よりも遥かに超過して時間を拘束されるにも関わらず、残業代みたいなものを払われたことは一度もありません。いつも仕事のお話をいただく時は皆さん「予算がないので…」を言い訳にしますが、だったらその予算以上のものを撮ろうとするなよと、僕はついつい思ってしまうんですね。足りない金を現場の負担でカバーしようとする旧日本軍みたいな精神論が全く理解できないです。

 

 ちなみに、僕が働いていたNYの映像業界の組合では6時間ルールというものがあり、撮影が始まって6時間以内に必ずクルーに30分の食事休憩を取らせる義務があり、更に1日の撮影時間を12時間*2に収める必要があります。これを超過してしまうと1.5倍〜2倍の残業手当を支払う義務があり、優秀なプロダクション・マネージャーや助監督はこの時間内に監督やクライアントが撮りたいものを撮れる人を指します。でないと、残業代で予算が膨らんでしまうので。

 

 一見すると、アメリカはすごい!という話になりかねませんが、よくよく考えたらこれは労働者としては当然の倫理観だと思うんですよね。現場でお菓子の並べ方だとか、クライアントへの気配りだとか、下らないことに偉そうな態度を取るプロデューサーがいますけど、時間管理やクルーの健康を守れていないのはハッキリ言って才能がないんじゃないですかね。

 

 おっと、ついつい火が入りそうになったので、ここら辺で止めておきますが、やはり企画から制作から公開まで、どこからどこを切り取っても「金がない」日本の制作現場はやはり異常ですし、スタッフが安いギャラの一円の搾りかすまでこき使われる感覚に慣れ切ってしまっているのも病的だと思います。キツい現場だと有能な若手も育たなかったりやめてったりするので、この状況は日本の映像業界にとって悪循環を生んでいるので、どこかで偉い誰かが変えないといけないですよ。

 

 で、ちょっと角度は違いますが、そうした悪循環を断ち切ろうとしている深田晃司監督のインタビューが素晴らしく希望が持てるものなので、是非読んでほしいです。 

 

 

*1:TVは逆にスケジュール通り終わることが多いのですが、これはタレントさんに次の現場があったりするので、延長しようにもしようがないからだと思います

*2:8時間、10時間の場合もあります