マイケル・ベイは庵野秀明だった!?

 YouTubeアルゴリズムが何故か『アンビュランス』のメイキング動画をサジェストしてくれたので観ていたんですが、マイケル・ベイが自身のカスタマイズREDカメラ"ベイヘム"を持って元気に撮影しているのを見て微笑ましかったです。

 

 マイケル・ベイがカメラを回している様子はよく見ますが、考えてみたらこれは中々ない光景です。何故ならマイケル・ベイの役職は「監督」だからです。予算のあるハリウッド映画では、通常カメラを回すのは撮影監督(DP)でもなく、DPから指示を受けたカメラオペレーターという役職の人たちです。まあ、規模感や体制によってはDPが回すこともあるでしょうが、監督は演出に集中するべき人間なので、監督自身がカメラを回すことはあまりありません。

 

 『アンビュランス』は元々ハリウッド映画にしては4000万ドル程度の低予算なので、監督自身がカメラを回していてもおかしくないですが、マイケル・ベイが「ベイヘム」を振り回している光景は今に始まったことではありません。作風同様、とにかくエネルギッシュな監督なので、自分でカメラを持って走り回るのがきっと好きなんでしょう。また、さらに調べていてびっくりしたのがNetflixオリジナル『6アンダーグランド』の撮影で使用したカメラの台数です。

  1. Apple iPhone X
  2. Arriflex 35 IIC, Panavision Primo and T-Series Lenses
  3. DJI Zenmuse X7
  4. GoPro HD Hero
  5. Phantom Flex4K, Panavision Primo and T-Series Lenses
  6. Red Komodo 6K Bayhem, Vantage One Bayhem Lenses
  7. Red Monstro, Panavision Primo, and T-Series Lenses
  8. Red Raven, Panavision Primo, and T-Series Lenses
  9. Red Weapon Helium 8K Bayhem, Vantage One Bayhem Lenses
  10. Sony CineAlta Venice, Panavision Primo, and T-Series Lenses
  11. Sony a7s

 えー、上記「『6アンダーグランド』の撮影:マイケル・ベイが指揮したカメラのオーケストラ」という記事によりますと、『6アンダーグランド』のアクションシーンは10台のカメラが同時に回っていたということです!しかもシネマカメラのREDやSony Veniceに混じって、フィルムカメラのArriflex 35 IIC、一般でも買えるミラーレスのa7s、GoPro、さらにはiPhoneXまで混じっているのが驚きです。

 

 とはいっても、マイケル・ベイは基本RED信者だそうで、撮影監督のボヤン・バゼリがいうことには、通常のアクションシーンでは3台のREDカメラが似たようなアングルから、しかし「異なったバイブス」で回しているそうで、車の中からのショットはSony Veniceで、ドローンはRED Ravenなど、同時に色々とアングルを試していたそうです。

 

 ここで思い返されるのは、マイケル・ベイ映画特有のガチャガチャした編集や情報量の多さで、マイケル・ベイの映画はどうしていつもこんなに見辛いのか?と思っていたら、単純に普段から撮影した量が物理的に多いんでしょうね。そして推測ですが、ベイもなるべく多くのショットを使いたがるタイプの監督なのでしょう。これだけ素材があれば、『トランスフォーマー/リベンジ』の編集が完成したのはワールドプレミアの直前、という逸話もありますが、これだけ素材があれば編集が大変なのも頷けます。

 

 また、『6アンダーグランド』に出演したライアン・レイノルズは、マイケル・ベイについて「マイケル・ベイはいつも緑のカメラを持っていて、現場に隙があれば持ち込んで、とりあえず回してるんだ」と語っています。マイケル・ベイはきっとプリプロ段階で確固たるビジョンがあるというよりは、現場現場の思いつきでとにかく「いいショット」を集め、編集で最良のものを選びたいのでしょう。

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 だからこそ、10台ものカメラが同時に回るというAD泣かせの事態が起きているのでしょうが、我々はこれによく似た撮り方をする監督を知っています。そう、庵野秀明監督です。

 

 『シン・ゴジラ』に始まる『シン〜』シリーズにおいて、庵野秀明監督の現場ではiPhoneからミラーレスカメラまで、10数台以上のカメラを同時に回すスタイルが注目され、映画ファンの間でも話題になりました。NHKのドキュメンタリーを見る限り庵野監督の場合は「計算外のアングル」を求めて10数台のカメラを回しているかと思いますが、編集であーだこーだ苦悩しているのもマイケル・ベイ監督とそっくりです。

 

 二人とも基本的なジャンルはアクションですし、巨大ロボ物*1を二人とも撮っていますし、二人とも作品内の情報量が多いのも似ています。まあ、大きく違うのは作品の中身の知性かもしれませんが、この二人は実はものすごく気が合うんじゃないですかね!

*1:分かってますよ、『エヴァンゲリオン』はロボットじゃありません!!