ハリウッド現場潜入記vol4. 現場専門用語編

 以前書いたように、映画の製作現場とは軍隊の指揮のようである。それがハリウッドレベルに規模が多くなればなるほど、指揮系統も大きなものになっていく。すると作業や指示をより効率化する為に、無線で専門用語が飛び交うようになるのだけれども、今回はAD(助監督)部で補佐として働いている僕が実際に現場の無線でよく使う用語を紹介していく。海外の映像製作現場で働きたい人以外、全く役に立たない英会話用語なのでご注意を!

 

10-1(テン・ワン)

 「トイレに行く」という意味。もよおして現場を離れることを仲間に知らす為に使うが、僕がよく使うのはキャストがトイレで抜けたことを現場を仕切る1stADや監督に知らせる時。

用例

Mr. Pitt is going for 10-1.

(ブラッド・ピットがトイレに行きます)

 

Copy/10-4 (コピー/テン・フォー)

 「了解」最頻出用語。何をするにもコピー。10-4も言うが、コピーの方がいいやすい。シーバーで聞き取れず、何回も聞き返すのが気まずくなった時もついコピーと言ってしまうが、それによって発生するミスは取り返しがつかなくなることがあるので、そういう時は直接聞きに行ったほうが良い(体験談)

用例

A: Angie will be off camera for the next shot, so she can take a rest.

(次のショットでアンジェリーナ・ジョリーは映ってこないので、休んでてもらっていいよ)
B: Copy(了解)

 

Traveling(トラベリング)

  バスケットボールでドリブルしないで3歩以上歩くことではない。キャストの控え室や待機場所はセットから離れていることが多く、機材セットが終わり撮影段階に入り、1stADがキャストをセットに呼んでほしいと無線が飛んできて、実際にキャストが移動したことを確認したら「Travelling(移動中)」と報告する。大物になればなるほどキャストはマイペースな方が多く、中々移動しない場合もあって現場もヤキモキするが、僕はキャストがようやく雑談をやめて席を立った辺りでサバを読んでトラベリングを報告することが多い。ただ、そのサバ読みを外して冷や汗をかくことも多い。

用例

Mr.Depp came back from 10-1 and now traveling.

(ジョニー・デップはトイレから帰ってきて今移動中です)

 

Call(コール)

 トラベリングの関連で、キャストに「それではセットまでお願いします」というお声がけをしました、と言うことを報告するための用語。コールはしたけどトラベルはしてない、というのはザラで、取り敢えず現場には間も無く移動するよと安心感を与えるために活躍する。

用例

RDJ has been called, he will travel in a moment. (ロバート・ダウニーJrは呼ばれました、間も無く移動します)

 

Wheels are rolling(ホイールズ・アー・ローリング)

 トラベルに関連してもう一個。ロケーションの都合上、時にキャストの控え室や待機場所がセットから車やゴーカートでの移動が必要となってくる場合があり、1stADはその点も計算に入れてキャストを呼んでいる。実際にキャストが車に乗り、その車が動き出したら「タイヤが回った」と報告する。そうすることで、大体あと何分くらいでセットに到着するか1stADが予想ができるのだ。

用例

Wheels are rolling on Mr.Pratt's vehicle!

(クリス・プラット車のタイヤが回りました!)

 

Eyes on(アイズ・オン)

 大規模予算映画のスタッフ・キャストの数は数百人規模だ。そうすると肝心な時に必要なスタッフがどこかへ消えてしまったりするので、「誰か〇〇見かけた人いる?」と呼びかける時に使う。そう言う時は大体、お菓子や飲み物が置かれているクラフティに行けば見つかる。

用例

A: Anyone eyes on Steve?

(誰かスピルバーグ監督見かけた人は?)

B: I see him at the meal space!

(飯場にいますよ!)

 

First Team/Second Team(ファースト・チーム/セカンド・チーム)

 日本の古き職人気質の現場だと「役者の仕事は待つこと」などとよく言われるが、実際キャストはかなり待たされる。リハーサルを重ねて演技を固めたあと、キャストは控え室や待機場所に戻ってリラックスするなり、セリフを覚えるなり、集中力を高めてシーンに備える。その間、撮影スタッフはスタンドインと呼ばれる代役を使い、画角を決めたりカメラワークを決めたりして準備を進める。このスタンドインの事を「セカンド・チーム」と呼び、実際に映画に出演するメインのキャストを「ファースト・チーム」と呼ぶ。

用例

A: We will prepare for next shot with the second team, so the first team can go relax.

(次のショットをセカンドチームで準備していくので、ファーストチームは休ませてください)

B: Copy that!

(了解!)

 

Last looks(ラスト・ルックス)

 キャストがいざ現場に入ると、まずは設定した画角、カメラアングルや演技が問題ないか最終的なリハーサルを行う。そこで問題がなさそうであれば、最後に改めてヘアメイク・衣装さんにラストルックスを呼びかけ、メイクや服装の乱れを直してもらい、撮影に入る。ラストルックスは毎ショット行うが、毎テイク行うわけではないので注意。テイク毎にラストルックスをコールしてしまうと、メイクさん達に素人扱いされてしまうぞ!

用例

Okay let's roll! Last looks please!

(じゃあ回していこう!ラストルックスお願いします!)

 

Go for~(ゴー・フォー・〇〇)

 無線は基本的にそのチャンネルに合わせている全員に聞こえてしまうものだが、個人間で何かを問い合わせたいときには「John for Jane(ジョンからジェーンへ)」などと呼びかける。すると受けてが会話をする準備ができたら「Go for Jane(ジェーンです、どうぞ)」と相手に知らせる。

用例

A: John for Jane.

(ジョンからジェーンへ、どうぞ)

B: Go for Jane.

(ジェーンです、どうぞ)

A: Can we have first team travel in 5 minutes?

(ファーストチームを5分後に移動できる?)

B: Copy, I'll call them in 5.

(了解です、5分後に呼びかけます)

 

 

 その他色々あるかもしれないが、ざっと思いつくところではこんな所。僕の仕事が主にキャストを見る仕事なのでちょっと偏りはあるかも。今後、皆さんも映画のメイキングを観るときはこうした用語を注視してもらえると、より現場のことを想像して楽しく見れるかもしれません!!好評ならまた続きを書きます。