『007/スペクター』のオープニングは改めてすごい!

 あー書くことねーな…と思って開いたYouTube、なぜか『007/スペクター』オープニング部分がレコメンされていて、ついついウットリと眺めてしまいました。

 

 世評の悪い『007/スペクター』は僕は大好きな作品で、ジェームズ・ボンドのケレンみとダニエル・クレイグのシリアスさが悪魔合体した怪作だと思うのですが、このOPは当時映画館で見て4分の長回しに衝撃を受けながら見てました。が、あれから映像業界に入って色々学んでから見直すと、なおさら「どうやって撮ってんの!?」と衝撃を受けました。

 

 というのも、オープニングはクレーンにカメラを載せて撮影しているのは明らかですが、その後はステディカムでホテルの中へ移動してエレベーターに乗り、部屋に入った後にバルコニーから屋上に出るという、とんでもない長回しをしています。まず、物理的にクレーンに搭載していうカメラをスムーズにステディに載せるのが不可能です。

 

 撮影の裏側を知りたくて、このシーンのメイキングを見たのですが、現場を回す責任者である1stADのマイケル・ラーマンは「ちょっとしたトリックでワンショットに見せるけど、今日の撮影ではできるだけ長く撮るつもりだよ」ともったいぶるばかりで、どのように撮影・編集していたかは教えてくれませんでした。

 

 仕方なしにネットで調べたらちゃんと出てきました。あのシーンは①まずクレーンでホテルに入るまでの長回しを切り(おそらくポスターのあたり)、②次の長回しはホテルの中からで、これは実際にはパレードが行われていた通りとは別の通りにあるホテルだそうです。エレベーターで上に上がり、部屋に入る直前にエキストラの肩がカメラ前を横切るのですが、これがおそらく次の編集点。実は③ボンドとエストレーリャが部屋の扉を開けるところからはイギリスのパインウッドスタジオで撮られたワンショットで、ボンドが窓から出る編集点を区切りに④メキシコシティの屋上のショットをうまく編集で繋いで4分の強烈な長回しショットに見せています。

 

 撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマ自身も「長回しに見えるが、それは不可能」と語っていますが、それが自然と本当にそう撮った映像に見えるのがすごいところです。『スペクター』を監督したサム・メンデスの次回作『1917』はその擬似長回しを全編に拡大した壮大な映画でしたが、逆に『1917』は毎回編集点が明から様すぎて僕は冷めてしまいました。マジックはやはりタネが分からないのが面白いのです。

 

 なお、少し話はそれますが、僕は普段ADをやることが多いため、『スペクター』のパレードシーンに映るエキストラたちの数を見ても圧倒されます。メイキングを見てもしっかりと未明から大量のエキストラのヘアメイクと衣装を用意しているプレップ(準備)チームがいて、その支度を遅滞なく円滑に行うためのエキストラADがいて…と考えると、本当に壮大さにクラクラします。もちろん、美術チームもシンコ・デ・マヨのパレードを再現するために相当準備したわけです。たった4分の長回しを成功させるために各部署が頑張っているのが総合芸術たる映画制作の面白さだなぁ、と改めて実感しました。