黙って戦う/Netflix版『ONE PIECE』

  • Netflix版『ONE PIECE』を観たんだが、これが思いの外すごく良かった。
  • ちなみに、僕と『ONE PIECE』との距離感で言えば、世代的には通っていて、高校から大学まではジャンプを毎週買っていたくらいだったけれど、魚人島編で冷めてしまってそれ以降離脱してしまい、今アニメや誌面上ではどういう展開なのか全然分からない。余談だけど、『ONE PIECE』との出会いはなぜか11巻(アーロンパーク編完結)から、一番燃えたのはアラバスタと頂上決戦編。
  • ということで、原作への愛はそこまで無いくらいの立ち位置での感想だが、久しぶりに全巻読み返したくなるくらいに『ONE PIECE』熱を植え付けてくれたのが実写版『ONE PIECE』だ。
  • そもそも企画発表時点で各所から言われていたように、数ある漫画実写化作品の中でも越えるべきハードルが高い作品だったと思う。2006年の『TRICK-トリック-劇場版2』では上田次郎がゴムゴムバトルを繰り出す意味不明な展開があったが、それだけ実写にしてしまうとギャグやパロディにしか見えない危険性のある作品が原作『ONE PIECE』だ。
  • が、実写版『ONE PIECE』は麦わら海賊団がそこにいる!という現実感を作り出した時点で大成功だった。数ある漫画の実写化作品がコスプレの原作再現大会みたいなのばかりな中で、『ONE PIECE』は原作に忠実であることよりも、原作に誠実でありながら実写ならではのアプローチで再解釈したのが良かったと思う。
  • 例えば、分かりやすいのはウソップやサンジのメイクで、あの特徴的な鼻やグルグル眉毛がなくてもウソップやサンジだと信じ込める。それはやはり見た目というガワに囚われることなく、キャラクターの内面を中心に実写で表現したから可能だった。
  • また、今回のドラマシリーズの8話ではちょうど原作の11巻まで、つまりイーストブルー編を網羅して再現しているが、たった8話で11巻分作ろうとしているので、原作と異なる展開はたくさん出てくる。が、これもあまり気にならないのはやはり原作の各エピソードが『ONE PIECE』という一大叙事詩において、どういう「ピース」だったか研究し尽くした上で改めて再構築しているからだろう。
  • これが下手な漫画実写化エピソードだったら無理に原作に忠実であろうとしてテンポを殺し、原作に似つかわしく無いオリジナルエピソードやキャラを入れて台無しにしているだろうが、実写版『ONE PIECE』の場合はむしろ原作との違いこそが面白く、これだけ違っても中心となる物語がブレない脚色の巧さに唸ってしまった。
  • それでいて、原作からの要素の掬い上げがうまい。原作を知っているからこそ、お馴染みの場面が違う演出で展開されるのはとてもフレッシュで、時折胸が熱くなる瞬間もあった。
  • あと、違和感なく現代的な視点を取り入れるのが上手い。例えばアルビダに対するルッキズムやナミのお色気要因的な要素は大分解消されている。また、人種バランスの良い配役もお見事でかつ違和感なく成立しているが、これは元々の原作が日本ではなく架空の世界のファンタジー漫画だったから成立している部分はあるかもしれない。
  • もう一つ素晴らしいのは、僕が漫画原作映画で苦手な「セリフバトル演出」がなるべく除外されていたことだ。原作はジャンプっぽく能力を説明しながらバトルを展開することが多いが、これは漫画という紙媒体だから成立する演出であり、3次元どころか時間も密接にかかわる4次元のメディアである映像作品で同じことをやられてしまうとテンポが悪くて仕方がない。
  • が、劇中ゾロに「黙って戦え!」と言わせたくらい、あくまでアクションで何が起きているか視聴者に伝えているのが製作者たちの映像というメディアへの理解度の高さを示す。一方で、それを逆手に取ってルフィが原作みたく技名を叫ぶ理由を「強い奴ほど技名を叫ぶ!」というギャグにしているのは面白かった。
  • しかし、欠点もなくはない。一つにはそのアクションを構成するスタントが全体的にモッサリして見えてしまっていたことだ。見せ方なのか、アングルなのか、編集なのか…。『ジョン・ウィック』とか『ミッション:インポッシブル』のアクションが基準となっている中で、ちょっとこれは古いというか厳しい。
  • あと、美術セットが狭く限定的に感じてしまうこともネックには感じた。例えば、第2話のオレンジの町はほとんどバギーのテントサーカスのみ、3、4話のシロップ村もほとんどがカヤの屋敷でのみ展開されていた。原作だとどちらのエピソードも同じ島の中でいろんな場所が舞台になっていたが、流石に予算的に難しかったのだろう。
  • 予算の話を書いたが、実写版『ONE PIECE』は一話あたり1800万ドル(約26億5800万円)、全話で1億4400万ドル(約212億8000万円)というとんでもない額のお金が投じられており、断じても低予算ではない。事実Netflixのドラマシリーズでも『ストレンジャー・シングス』シーズン4についで史上2位の制作費である。
  • しかし、霊視に考えると一般的なハリウッド大作映画の予算は6500万ドル(宣伝・マーケティング費込みで1億ドル)なので、1話あたりの制作費はハリウッド映画と比べるとずっと少ない。3話以降2話連続で同じ島を舞台にしていたが、それでも3600万ドルなので大作映画と比べれば安い。これがお金がかかっている割には1エピソードあたり1、2セットしか出せず、チープに見えてしまう原因なのかもしれない。しかもドラマはシーズン内で同じセットを繰り返し使うことで予算を抑えることが多いが、冒険をテーマとしているのでそれも難しく……まあ、それでもトンデモない額での話なのは間違いないんだけど!
  • まあ、それでもお釣りが帰ってくるくらい、実写版『ONE PIECE』は面白かった。多分、『ONE PIECE』を知らない人が見ても面白く作られているんじゃなかろうか?そういった意味でも万人にオススメできるシリーズです。是非第2シーズンを!