ホモフォビックな刑事、ゲイの幽霊と結婚する/『僕と幽霊が家族になった件』★★☆

  Netflixで台湾のコメディ映画『僕と幽霊が家族になった件』を鑑賞。監督、脚本はチェン・ウェイハオ、音楽を手掛けているのはLGBT人権活動家としても知られるポップシンガーのジョリン・ツァイ。主演コンビにグレッグ・ハン、リン・ボーホン、共演にワン・ジンら。

 ホモフォビックな麻薬捜査官ミンハンは仕事でポカを犯して交番勤務に左遷させられたが、ある日赤い封筒を拾った事でゲイの幽霊マオマオと冥婚させられる事になる。自らの運気を向上させれるため、マオマオが生前にやり残したことを次々と叶えさせ、成仏させようとするが…というのが主なあらすじ。ちなみに、台湾人の嫁さん曰く冥婚は本当に台湾にある迷信で、道で赤い封筒が落ちてても拾っちゃいけないよ、と子供の時に言われたそうだ。

 

 台湾は東アジアの中でもリベラルな地域で、アジアの中で真っ先に同性婚を合法化したのも台湾だ。故に同性婚を題材としたコメディを作れるのも非常に先進的な印象を受けるが、僕は同性愛を嫌悪する主人公を作ったのが見事だと思った。同性婚が合法化されたとはいえ、国民全員が快く思っている訳ではない。まだ保守的な人も性差別的な人も存在するし、まだまだ生きづらさを感じる性的少数者たちもいる*1

 

 本作は男性優位主義社会で覇権を握った有害なストレート男性がゲイの幽霊と同棲生活を送る中で改心していく様子に感動を覚える。台湾社会が抱える問題に逃げずに直面し、より性的少数者や女性が行きやすくなる台湾社会を目指して作られた映画だとも言って良い。

 

 特に、僕が本作が素晴らしいと思ったのは、ポリティカル・コレクトネスのバランスが見事なことだ。例えば、冒頭で冒頭で主人公が同性愛者に差別的な言葉を発するが、これは同性愛嫌悪のキャラクターが改心する物語として文脈に沿っており、非常に効果的である。

 

 前にブログに書いたことだが、僕が以前参加した映画で台本に「ノー外人」と書かれていたことが問題となった。これは外国人の主人公が日本で家探しをする際に不動産屋に言われるセリフだったのだが、「外人」というワードが差別的だからダメだと撮影直前にプロデューサーが言い出したのだ。これは政治的正しさというものを履き違えており、問題の本質を見誤ったがために忖度による表現を自ら狭めてしまっている。

 

 話を戻すと、流石はオープンマインドな台湾社会なだけあって、こうした繊細な表現に関しても邦画よりも随分先に行っていて悔しい限りだ。一方、カーチェイスVFXの拙さや、変なところでジャンプカットになる編集の荒さなども目立っているのは玉に瑕なのだが、内容はもちろんのことジョークの一つ一つが面白く、またドラマの伏線の回収も見事で優れたコメディだった。オススメ!

Untitled ("Marry My Dead Body"Theme Song)

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*1:ちなみに、本作の音楽を手掛けたジョリン・ツァイは、いじめにより自殺した実在のゲイの少年を題材にした歌も歌っている

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