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やっちゃダメ!を全部やる。/『渇き。』★★☆

 2004年『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生の『果てしなき渇き』を、『嫌われ松子の一生』や『告白』でお馴染みの中島哲也で実写化。CM監督出身の中島作品はどれもアクが強く、毎度賛否を呼ぶのが恒例であるが、今回も漏れずに今年最も物議をかもす映画になるだろう。

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 というのも、売り手側がそういう風に仕向けているというのもあり、実際に公式サイトには観客の賛否コメントを集めたページもある。僕は未読だが、そもそも原作自体がそのあまりの過激さから映像化不可能と言われていた曰く付き物件だったため、この戦略は正解と言える。

 深町秋生の原作(=この映画のストーリー)は、殺人、未成年による違法薬物の使用、援助交際、いじめ、自殺、レイプ、近親相姦と、この世のタブーを尽く犯す内容となっている。今学生は1000円で『渇き。』を観れるキャンペーンをやっているが、実際に映画を観ているとむしろよくR-15に抑えられたと驚いてしまう。


 そして、ストーリーの過激さに呼応するように、中島哲也の演出もタガが外れていて、情報量が暴力的に多い。イマジナリーラインを割る事はもちろん、被写体どアップ、激しい手ぶれ、極端に短いカットバック編集など、どれももし映画学校だったら「絶対にやっちゃダメ!」と言われるような手法ばかりだ。ほぼ2時間の尺でこのハチャメチャなテンションの映像を見せ続けられるわけだから、場内が明るくなる頃には疲弊してグッタリしてしまったほどだ。*1

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 内容も演出手法も一般に「ダメ!」と言われているような事ばかりなので、今年一番疲れた映画だったけれど、しかし認めなくてはならないのは、この映画には禁忌を破る快感が確かにあったということ。藤島を通して目撃する数々の凄惨な場面に眼を背きたくなるが、実際には逆にスクリーンに釘付けになってしまう。中島哲也の過剰演出はトリップ感を増幅させ、ファム・ファタールである藤島加奈子が全ての登場人物を誘惑していくにつれ、観客も映画を通して疑似体験できる非日常に魅了されていく。映画という興行の、基本的で正しいあり方だ。

 そういう意味では、ゆる〜い企画映画や安い御涙頂戴映画、映画版テレビドラマなんかよりも断然観る価値がある映画だ。ただし、本当に体力を消耗する映画なので、体調が万全の時にどうぞ。


映画『渇き。』予告編【高画質】 - YouTube

 

果てしなき渇き (宝島社文庫)

果てしなき渇き (宝島社文庫)

 

 

 あ、そうそう、中島哲也の演出とは関係なしに、役者陣の演技は全員「本番前に一発キメてんじゃないの?」ってくらい最高だったので、それだけでも一見の価値はあります。あと、深町秋生映画秘宝にたまに映画評を載せているけど、映画秘宝はこの作品をどう評価するかも気になる所ではあります。

*1:余談ではあるがTOHOシネマズ日本橋のTCXで観たというのも疲れさせる一因だった。