『映画秘宝』が大切なら、町山氏に誠実な対応を求む。

 今週は辛い投稿ばかりですみません。でも、やっぱり書かずにいられない。

 

 僕は10年間フォローしていた町山智浩氏のTwitterのフォローを昨年の春頃に外した。ここ近年、Twitter上でちょっとでも意見が違う相手に粘着気味に食らいついていく姿勢や、デマ情報を拡散してしまうに迂闊さにちょっと辟易していたところ、コロナ禍が始まって日々を不安に過ごしていた折に、氏のツイート(なんだったかは忘れました)を見て堪忍袋の尾が切れてしまった。映画クラスタ内での町山氏の影響力は凄まじく、フォローを外してもRTなどで発言が流れて来てしまうので、ミュートにかけたほどだった。

 

 個人的に僕を知る人ならば、これがどれだけ苦渋な決断だったかお分かりかと思う。大学時代は町山氏が書いた書籍を買い漁って読んだ。氏がラジオで語ってたことを友達や後輩に披露したりした。政治に全く無頓着だった僕に、差別に反対することや社会的正義を主張することの重要さを教えてくれたのは、氏の映画評やアメリカについてのコラムだった。昨日書いたことと似ているが、このブログは町山氏の影響抜きには語れない。

 

 でも、最近の氏には僕が好きだった頃の影はなく、むしろ氏が批判する「ネトウヨ」のような不寛容さや視野の狭さ、欺瞞すら見えてきてしまう。これ以上嫌いにはなりたくなかったので、フォローを外してミュートにかけた。Twitterを嗜む上では精神的には非常に楽になった。たまに気になってTwitterを覗きに行ったりするが、また炎上騒ぎになっていても「相変わらずだなぁ」くらいに遠目で見れるくらいにはなった。氏の映画評は好きなので、新刊などはこれまで同様に買っている。これくらいの距離感が一番心地よかった。

 

 そして、昨日の今日である。大好きな雑誌の行く末を固唾を飲んで見守っていたが、まず朝に『映画秘宝』が別冊映画秘宝田野辺尚人氏、映画秘宝編集部、相談役町山智浩氏、柳下毅一郎氏の連名で以下の声明文が出された。

 

 正直に言って違和感しか感じなかった。今回の事件で被害者である女性の電話番号が双葉社から岩田氏に渡った経緯が記されておらず、被害女性へ殺到していた誹謗中傷を止めるような注意喚起もなされていない。そして双葉社は「関係ない」と強調して忖度する姿勢も非常に『秘宝』らしくない。普段あれだけRTしたり、あれだけニュースについてうるさく呟いている町山氏のTwitterが、妙に静かだったことにも苛立ちを覚えた。てらさわホーク氏やキシオカタカシ氏、高橋ヨシキ氏、添野知生氏など、映画秘宝と深く関わりのある数々のライター陣が声明を出しているだけに尚更。

 

 さらに憤りを覚えたのが、町山氏が毎週ラジオ出演しているTBSラジオ『たまむすび』を聞いた時だ。今回の件について、何かしらの釈明があるのかと思ったが、一切触れることなく通常営業だった。愕然とした。当然、今回の事件は町山氏が起こした訳ではなく、今では氏も『映画秘宝』の前線に立っている訳ではない。とはいえ、昨日の今日起きたことで、岩田氏が起こした事件について触れないのは全くもって不自然だし、被害者女性にとっても『映画秘宝』を心配している読者にとっても不誠実極まりない。町山氏はなんのために謝罪文に連盟で名を連ねたのだろうか。ちなみに、夕方の同TBSラジオ『アトロク』で宇多丸氏と宇垣美里アナウンサーは本件についてしっかりと触れ、厳しく身内の岩田氏を批判し、被害者に寄り添っていた。

 

 そして、夜になり、注目を集めていた出版元の双葉社がようやく声明文を出した。アクションを起こすのが遅かった点を除けば、今回の問題点や今後の改善点をしっかり述べ、被害者女性に対してもニ次被害が起こらないように配慮をした実に誠意ある声明文だったと思う。しかし、それをすべてぶち壊したのが、町山氏だった。

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 町山氏にはツイートを消す癖があるので、しっかりと証拠としてスクリーンショットで残しておいた。それくらい僕は怒ったし、呆れたし、悲しかった。たった今朝、『映画秘宝』が「弱者に寄り添う」雑誌だと主張しておきながら、被害者女性に誹謗中傷をしないよう呼びかけている理由が、「映画秘宝継続のため」???

 

 創刊者の町山氏にとって『映画秘宝』がいかに大切な雑誌だったかは分かる。たかが一読者の僕に、カウンターから始まったムック本が、日本一売れている映画雑誌になるまでの努力や苦労を全て理解できているかと言われたら嘘になるが、その大変さを想像することはできる。だが、こうした氏の不誠実さが『映画秘宝』の信頼をなおのこと傷つけてしまっていることが、これほど「言葉」を生業としてきた人に理解できないのだろうか?そしてタラレバになってしまうが、仮に他誌で同じような事件が起きたとして、その身内の人間がこうした不誠実な発言をした際に、真っ先に批判しに行くのは町山氏ではないのか。

 

 町山氏はいつも映画に登場するヒーローを引き合いに出して、現実社会にいる差別主義者や権力者たち、卑怯な悪を糾弾する。でも今の町山氏は、そうした映画のヒーローたちに面と向かって胸を張ることができるだろうか?こんなことを、ファンだった僕に言わせないで欲しい。