東映の『スーパー戦隊』シリーズをローカライズした『パワーレンジャー』シリーズのリブート映画版を鑑賞。監督は『プロジェクト・アルマナック』のディーン・イズラライト、脚本は『クロニクル』『エージェント・ウルトラ』のマックス・ランディス。製作にTVシリーズも手がけたハイム・サバン、音楽は『ワイルド・スピード』シリーズのブライアン・タイラー。パワーレンジャーのメンバーをデイカー・モンゴメリー、ベッキー・G、RJ・サイラー、ナオミ・スコット、ルディ・リンらが演じ、ゾードン役にブライアン・クランストン、アルファ5の声をビル・ヘイダーが担当。原作で曽我町子が演じたリタ・レパルサ(バーバラ・グッドソン)をエリザベス・バンクスが演じる。
正直、アメコミヒーローのリブートがやりがちな失敗をしている作品であった。ヒーローの誕生譚なのでメンバーたちのドラマパートに焦点が当たり、クライマックスになるまでひたすらトレーニングだし、第三幕まで戦闘どころかまともにヒーロースーツすら着ない。スーツを着たら着たらで、契約上の理由か何か知らないがほとんどのシーンで素顔を見せており、スーパーヒーローとしての醍醐味にかける*1。メカのデザインもパッとしないし*2、決戦の舞台がクリスピードーナッツとプロダクトプレイスメントは露骨すぎで、おまけに脚本がマックス・ランディスということあって「『クロニクル』…ジョシュ・トランク…『ファンタスティック・フォー』*3…ウッ!」と変なところで頭痛がするのであった。
そんなに肝心のアクションがダメダメでもこの作品が嫌いになれないのは、本作が明から様にジョン・ヒューズの『ブレックファスト・クラブ』にオマージュを捧げているからだ。そもそもジェイソン(レッド/デイカー・モンゴメリー)、キンバリー(ピンク/ナオミ・スコット)、ビリー(ブルー/RJ・サイラー)の三人は問題児が集められる土曜朝の居残り教室で出会う。
ドラマばかりに尺を割いたことでアクション映画としてはつまらなくなったが、学園映画としては各キャラクターの背景が掘り下げられて共感を呼びやすい。ヒーローである前に思春期の高校生であるレンジャーたちは、自我同一性が未確立な時期独特の繊細な悩みを抱えている。例えば、ジェイソンは花形クォーターバックであったが、父親から過度の期待をかけられてヤケになる。キンバリーはネットいじめに加担する罪を犯してしまい、逆にビリーは自閉症のために虐めの標的になっている。トリニィ(イエロー/ベッキー・G)は自分の性的指向を隠しているために周囲から孤立し、ザック(ブラック/ルディ・リン)は陽気な性格であるものの病弱の母親がいつか自分を遺して逝ってしまうことを恐れている。
このようにレンジャーたちは実に思春期らしい、しかし思春期故に容易には解決し難い問題を背負いこんでいる。そんな悩みを『ブレックファスト・クラブ』よろしくお互いに打ち明けることでレンジャー同士の絆は確固たるものとなる。ちなみに『パワーレンジャー』シリーズはアメリカの多様性を配慮してメンバー間の人種や性別を均等になるよう配慮されていることが特徴だが、リブート版では更にLGBTQや自閉症のメンバーを加えたことでさらに深みが出ている。
観客のノスタルジーを喚起するはずの『パワーレンジャー』が作り手の予想に反してコケている。まあ五人もいるヒーローの誕生譚は難しかっただろうし、こうした現代流アップデートも観客が気に入らなかった一因だろう。個人的にはジョン・ヒューズ的な青春映画を観れただけで学園映画ファンとして満足なのであった…と閉めようとしたら、これをもっとうまくやっていたのが『ベイマックス』*4だったということを土壇場で思い出してしまった…。
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