子供の日常はパーティーだ/『The Florida Project』★★★

 カンヌ国際映画祭の監督週間で上映され話題となった『The Florida Project』を鑑賞。『タンジェリン』のショーン・ベイカーが監督・製作・脚本・編集をこなした。ウィレム・デフォーを主演に、ブルックリン・プリンス、ブリア・ヴィナイティア*1など新鋭が集う。

f:id:HKtaiyaki:20171116132934j:plain

Celebrate good times, come on (Let's celebrate)
Celebrate good times, come on (Let's celebrate)

さあ楽しもう、お祝いしようぜ
さあ楽しもう、お祝いしようぜ


There's a party goin' on right here
A celebration to last throughout the years
So bring your good times and your laughter too
We gonna celebrate your party with you
今ここでパーティーが開かれているんだ
年中続くお祝いさ
だから楽しんで笑おうよ
君と一緒にパーティーを祝うよ

Come on now 

さあおいでよ

 

 クール・アンド・ザ・ギャングの大ヒット曲『Celebration』で幕を開ける『The Florida Project』は、まさに歌詞のままに無邪気に生きる子供たちを描いた映画だ。『The Florida Project』はダブルネーミングになっていて、まずはウォルト・ディズニー・ワールドの初期構想の名を指し、そしてProjectは団地、つまりフロリダの団地を指す。

 

 『The Florida Project』の舞台となったキシミーには僕自身も2年前に行ったことがある。ディズニーやユニバーサル・スタジオの紛い物の商品を売る派手な装飾を施したショップや、リゾート地のおこぼれをもらおうと「マジカル」や「トロピカル」といった大仰な名前がつく低価格のモーテルが立ち並ぶ。世界が誇るテーマパークが落とした影を象徴するような場所であった。

 

 『The Florida Project』に登場する子供達は、そんな夢の王国とはかけ離れたようなモーテルで暮らしている。食べるものにも苦労するギリギリな生活でも、子供達は想像力と創意工夫で楽しく日々を生きていて、多幸感に溢れている。何よりも驚かされるのは、ブルックリン・プリンスを初めとした子役たちのあまりにも自然な演技だ*2。カメラが回っていること、演出が入っていることを忘れてしまうくらいリアルで、是枝和弘監督作を思い出す。普通の映画だったらテンポを殺してしまいそうな何気ない日常描写ですらパーティーのように楽しくて勝手に笑顔になってしまう。

 

 一方で、この作品のリアルさは日常にそのうち不協和音ももたらす。「何気ない日常」と思っていた場面が、実は後で子供には分からない現実世界の歪さや汚さが巧妙に隠されていたと知り驚愕する。そして非情な現実はいつしか子供達の幸福に満ちた世界を引き裂いてしまう。

 

 しかし、子供達の日常が壊されると思われたその瞬間、地に足についた物語が虚構へと一気に駆け上がる。虚構の力で現実を乗り越える、まさに映画ならではの奇跡を見せたラストで、なぜこの映画の舞台がフロリダなのかを改めて気付き、涙が止まらなくなるのであった。

 

クール&ザ・ギャング・ベスト・セレクション

クール&ザ・ギャング・ベスト・セレクション

 

 

*1:この苗字、読み方が難しすぎてアメリカ人も困るほどであった

*2:子役ばかりに注目が行きがちだが、大人の役者たちも忘れてはいけない。唯一のビッグネームであるウィレム・デフォーの父性溢れる演技は当然として、ほぼこの映画が初出演であるブリア・ヴィナイティアの演技がこの映画に与える説得力も素晴らしい。ちなみに先ほどの動画にもあったが、彼女はなんとショーン・ベイカーがインスタグラムから拾ってきたらしく、タトゥーも本物