本日久方ぶりに『イージー★ライダー』を見返したのですが、こんなやり取りが気になりました。(筆者訳)
ビル:あんたはなんだか偉い「デュード(野郎)」みたいだな
ジョージ:「デュード」?それはどういう意味かね?デュード・ランチ(観光用牧場)みたいなものか?
キャプテン・アメリカ:違うぜ。「デュード」ってのは「いい奴」って意味だ。普通の奴のことさ
ジョージ:なんにせよ、君たちはここら辺の人間ではないようだね
「デュード」っていうのは、アメリカでは非常によく使われる俗語なんですが、基本的には「奴」という意味です。転じて、色々な使われ方をされていて、例えば『サウスパーク』では子供たちがすぐに「デュード」といいますが、あれは呼びかけの意味だったり、ショックを受けた時に発する感嘆詞になります。『ビッグ・リボウスキ』では主人公のジェフリー・リボウスキが自らを「デュード」と呼ばせていましたね。
とにかく、文脈によって意味が変わる「デュード」は非常に便利な言葉で、特に若者の間で広く使われているのですが、『イージー★ライダー』が公開された1969年、地域によって「デュード」が伝わらない場合があった、という描写に僕は驚いたのです。そこで「デュード」をインターネットで調べてみると、英語版Wikipediaに解説が書いてありました。本当にネットは知の海ですね!
これによりますと、そもそも「デュード」は「ダンディ」に取って代わった言葉で1880年代ごろから使われていたそうです。当時「デュード」は「めちゃくちゃおしゃれな男性」を意味しており、ニューヨークには「デュードのキング」と呼ばれたエヴァンダー・ベリー・ウォールという社交界の名士がいたそうです。なんてかっこいい通り名なんだ!
▲「デュードの王様」ことエヴァンダー・ベリー・ウォール
しかし、こうしオシャレな「デュード」は主に東部の大都市の出身者であることが多く、カウボーイや田舎の人は蔑称として「デュード」を使っていました。そこにはたまに地方や田舎にやってくる都市部の出身者が無礼で無知で見栄っ張りである、という意味が込められています。*1こうした東海岸や西海岸の都市部の人間と、南部や中西部の地方の人間の軋轢は現代のアメリカでも続いています。
で、そのうち交通機関が発達してより多くの人々の間で「デュード」が知れ渡るようになり、また労働者階級の学校などで使われたことで様々なサブカルチャーにも影響が波及し、全米の縦軸と横軸に伝播することで「デュード」は現在のように「オシャレな男」よりもより一般的な「男」という意味として定着し、20世紀の終わり頃からは感嘆詞的な使われ方もするようになったそうです。
なお、「デュード」の流行には1960年代のサーファーカルチャーが一役買っており、今でもスケッチやスタンダップコメディなどでコメディアン達がカリフォルニア出身の男を物まねするとき、過剰に「デュード」を使って笑いを取ります。ちなみに、『イージー★ライダー』の2人組もLAから遥々旅を続けていて、この作品が公開されたのは1969年なので、まあ「デュード」の過渡期だったと考えると色々と辻褄が合います。
▲アクセント物まねが完璧に巧い南アフリカ出身のコメディアン トレヴァー・ノアによる、爆笑カリフォルニア人ものまねでも「デュード」が頻出する。(1:50~)
なお、先ほどの「デュード」のWikipediaページには、一番最初に「デュード」という言葉が使われた映画の一つとして『イージー★ライダー』が引用されていましたので、「デュード研究」においても『イージー★ライダー』は重要な映画なんだなぁと思いました。皆さんも映画の中で「デュード」という言葉をよく聞くと思いますので、これを機に覚えておいてくださいね。