ヒーローへの幻滅

 最近あまりTwitterを見ないようにしていたので今更知ったんですけど、スピルバーグイスラエル寄りの発言をしていたと知って何とも言えない虚無感を抱いています。

 

 この発言の大元は、ショアー財団の声明です。ショアー財団はスピルバーグが『シンドラーのリスト』でアカデミー賞を取ったのち、1994年に設立したホロコーストやその他虐殺の生存者へのインタビューを記録することを目的とした非営利教育団体です。こちらの記事は、財団が10/7に起きたハマスイスラエル攻撃の生存者のインタビューを集めていることを発表したもので、スピルバーグは記事ないで次のように語っています。

私が生きている間に、ユダヤ人への言葉にならない蛮行を目撃するとは思いもしなかった

10月7日の攻撃の生存者とホロコーストの証言の収集は、私たちが生存者たちへの約束を果たすことを目指している。その約束とは、彼らの物語が記録され、共有され、歴史を保存し、反ユダヤ主義やあらゆる種類の憎悪のない世界を目指す取り組みに貢献することだ。私たちはこれらの取り組みにおいて団結し、不動の姿勢を保つ必要があります。

 一応補足しておくと、記事内でスピルバーグが指摘しているのはあくまで「10/7のハマス攻撃とその後に波及した反ユダヤ主義」です。スピルバーグユダヤ人ですし、これまでのスピルバーグホロコースト被害者に対して積極的に貢献活動をしてきましたし、彼が突如として暴力に巻き込まれたイスラエル市民に寄り添うのはある程度は理解できます。

 

 が、それにしても今回のハマス攻撃に至ったイスラエルの暴力の歴史、そして現在まで続くガザ地区への虐殺行為にあまりにも無頓着すぎる発言だと思います。スピルバーグの『ミュンヘン』は単にイスラエルへのテロを一方的にユダヤ人への被害者意識で描いたものではなく、イスラエルパレスチナ間の終わらない報復と暴力の連鎖を描いていたからこそ傑作だったのに、今回の発言でイスラエル-パレスチナ間の圧倒的な力の不均衡を無視しているのは全くいただけません。スピルバーグの映画はいつも弱者に寄り添っていたはずなのに、この発言以降どうやってスピルバーグの映画を見たらいいのか、分かりません。

 

 今回辛いのは、僕がやはりスピルバーグ作品に育てられ、スピルバーグを愛してきたからです。僕が信じていたヒーローが、そのヒーロー像とは真逆のスタンスや言動をとって幻滅させられる感覚、どこかで味わったなと思ったら『映画秘宝』でしたね。その『映画秘宝』も今日ニュースが出てましたが、来年復刊するそうです。スピルバーグと違って、『映画秘宝』にはもう期待も何もないんですけどね。