『TENET/テネット』は莫大な資本をかけて作られたTikTok動画だ!

(この間のオンライン飲み会*1で話したことを元に改めて記事にしてみました!)

 

 お陰様で『SKITBOOK』のショートコントはTikTokでちょっと注目され、一番再生数を稼いだ動画は27万再生を超え、毎日通知が鳴り止まずフォロワーも徐々にではあるが順調に増えており、今日フォロワー数が2200人を突破した。少し前まで思いっきり偏見の目で見ていたことがちょっと申し訳ないくらいTikTokは今や毎日チェックするSNSの一つとなった。(といっても、やはりまだ戸惑いはあるけれど)

 

 で、なまじ映画好きの三十路手前の人間が、世間の注目を浴びたい学生達が動画をアップするTikTokを眺めてて気付いたことは、『TENET/テネット』とTikTokの根幹にあるエモーションは同じだ、という事だ。過激なフィルム原理主義で映画館を愛し、私生活ですらスマホタブレットの類を持つことを拒否するノーラン君にとっては、デジタル文化を象徴するTikTokなんかと比較されることは不名誉なことかもしれないが、まあ聞いてほしい。

 

 バズることが使命のTikTok動画は、1分という短尺の中でいかにクリエイティビティを発揮するかが肝だ。人気曲に合わせてダンスしたり、くだらないギャグやイタズラなどを仕掛けて安易に中高生のハートをガッツリ掴みに行くものもあるが、感心するのは映像の編集技術を使ったトリック動画が絶大な支持を受けているジャンルの一つだという事だ。中にはAfterEffectsなどの本格的な編集ソフトを使ったものもあれば、TikTokに備え付けられている標準的な編集機能で加工したものある。これだけ映像技術が進んでいる中で、ジャンプカットやディゾルブ、ストップモーション、中抜き、そして逆再生などの手垢にまみれた古典的なテクニックが若者達の目を奪っているのは特筆に値する。


 映画史に詳しい方ならご存知の通り、映画とトリック(マジック)の関係性は深い。初期の映画興行は見世物小屋で行われ、数多くのマジシャンが参戦した。世界最初のSF映画『月面世界旅行』(1902)を撮ったジョルジュ・メリエスもその一人であることは言うまでもない。メリエス多重露光やジャンプ・カット、フェードアウトなど、120年以上経った今でも現役で使われている編集技術生み出し、映画に物語性を与えた。メリエスからちょっと遡っても、「映画の父」と呼ばれるリュミエール兄弟はすでに1895年にはフィルムの逆再生を利用した『壁の破壊』というサイレント映画を発表している。

 

 そしてノーランである。先に述べた通り、ノーランはかなりのアナログ派・フィルム主義であり、CGを使うことを嫌う。『TENET/テネット』も公開当時は時間の逆行という奇想天外(にみえる)アイディアと、複雑(にみえる)なプロットが喧伝されたけれど、映画史を愛するノーランはリュミエール兄弟がやったことをやりたかっただけなのだ。ただし、飛行機を建物に突っ込ませるほどの金をかけて

www.youtube.com

 

 さて、TikTokと初期の映画と『TENET/テネット』を並べてみて何が共通しているかといえば、「映像の原初的な衝動」なのだ。映画という技術を発明したばかりのリュミエールもメリエスもフィルムを逆再生せずにはいられなかったように、映画少年に戻った気持ちでIMAXで撮ったフィルムを逆再生して無邪気に喜ぶノーランと同じように、万人ががスマホを持つようになりカメラが身近な存在となった現代の若者達も逆再生動画を作って興味深く遊んでいるのだ。そこには「初期映画の喜び(©︎sigeさん)」や「根源的な喜び(©︎massasさん)」で満ちている。そう考えたら、『TENET/テネット』はTikTokと比べられることはある種名誉のことではないだろうか、ノーランくん。

 

 

【参考文献】

projects.leadr.msu.edu

www.britannica.com

silentlondon.co.uk

 

TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: Prime Video
 

 


*1: