SNS全盛時代のホラー/『ハロウィン KILLS』★★☆

 ホラー映画『ハロウィン』シリーズの最新作『ハロウィン KILLS』を鑑賞。監督・脚本は前作に引き続きデヴィッド・ゴードン・グリーン、グリーンの盟友ダニー・マクブライドも今回も脚本を執筆。制作総指揮並びに音楽を第1作目を撮ったレジェンド ジョン・カーペンターが担当。主演はシリーズの顔で制作総指揮も務めるジェイミー・リー・カーティス、共演にジュディ・グリア、アンディ・マティチャック、ウィル・パットンら。

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 前作『ハロウィン(2018)』は、1978年版の傑作を現代的価値観でアップデートした作品だった。1作目の直接的続編という仕掛けに目が行きがちだが、考えてみると筋書きはほとんど1978年版と同じで、精神病棟から脱走したマイケル・マイヤーズがハドンフィールドを恐怖に陥れる。

 

 唯一にして最大の違いは、ヒロインのローリーの立場で、78年版ではひたすらマイケルに襲われるか弱い少女だったのが、2018年版では40年間日々鍛錬を行い、再び現れたマイケルをブービートラップで迎え撃つ。まるで『ターミネーター』に対する『ターミネーター2』であり、ホラー映画において犠牲者になりがちな「弱い」女性が、怪物と対等にやりあう「強さ」を見せた。

 

 そんな『ハロウィン』シリーズに新風を持ち込んだ2018年版の続編たる『ハロウィン KILLS』は、別の角度から『ハロウィン』を、あるいはホラー映画を現代的に描く。前作と地続きで「2018年」を舞台とした本作が非常に興味深かったのは、スマホの存在感がほとんど消えている点だ。

 

 ホラー映画においてすぐに他者とコミュニケーションが取れるスマホは厄介で、ホラー映画を見ると作り手たちはスマホの扱い方に苦労している様が見れる。都合の悪い時に電池が切れたり、電波が繋がらなかったり、殺人鬼にスマホが奪われたり、あるいは物語の展開にスマホを組み込んでしまったり。

 

 しかし、『ハロウィン KILLS』ではスマホは前半に必要最低限レベルで登場するのみで、ブギーマンの殺戮が本格化する中盤以降、観客の意識が劇中のスマホに向かないように注意して作られている。すぐに人を殺せる拳銃ではなく、怪力とナイフでゆっくりと相手の命をとるブギーマンの殺人スタイルに、スマホの利便性はテンポが合わないから登場させなかった、というのはあるのかもしれない。

 

 が、僕が本作で特筆すべきだと思ったのは病院でのシークエンスだ。1人の少女と殺人鬼の決戦という個人の物語だった前作と比べ、本作はマイケルの恐怖によりパニックに陥った群衆の物語である。恐怖と偏った正義感に駆られたハドンフィールドの住民たちは、誤った方向に暴走していく。

 

 結果的に悲劇的な暴力を生む圧巻のシーンだったが、ここで描かれているのは「2018年」のアメリカである。SNS全盛時代において、人々は自分の信じたい情報のみを信じ、偏狭な正義感に煽られて取り返しのつかない暴力を振るう。本作でグリーンがスマホの存在を隠したのは、逆説的にこうした「スマホ的」なテーマを寓話的に描きたかったのではないだろうか。

 

 だからこそ、このテーマが凝縮された病院でのパニックシーンは鳥肌が立つくらい素晴らしかった。惜しむらくは、前作と比べると全体的に恐怖の演出がいささか陳腐であるところだが、大団円となる次作『Halloween Ends』に期待したい。