ロッキーではなくミッキーが主役のアツいバスケ物語/『HUSTLE/ハッスル』★★☆

 Netflixオリジナル映画『HUSTLE/ハッスル』を鑑賞。アダム・サンドラーレブロン・ジェームズが制作総指揮を務め、監督はジェレミア・ザガーが担当。主演にアダム・サンドラー、共演にクイーン・ラティファベン・フォスター、そしてフアンチョ・エルナンゴメス他、アンソニー・エドワーズ、ケニー・スミス、Dr.J、トレイ・ヤング、クリス・ミドルトン、カイル・ラウリー、タイリース・マキシー、マティス・サイブル、ボバン・マリヤノビッチ*1、ダーク・ノヴィツキー…等々、新旧のNBAレジェンドやスターが共演。

 

  映画ファンであると同時にNBAファンでもある僕は、本作に登場する無数の豪華NBAスターが登場するたびに息を呑んだ。それだけで本作を褒めちぎりたくなるくらいには大甘に観てしまっているが、『HUSTLE/ハッスル』の素晴らしいところはファンサービスに媚びるだけの表層的な映画に終わっていないことだ。その証拠に、NBAの知識が1ミリもない人が見ても本作の魅力は十分に伝わるし、エンディングにはスカッとした気持ちでいるだろう。

 

 本作でアダム・サンドラーが演じるスタンリーはフィラデルフィア76ersのスカウトマンであるが、舞台をフィラデルフィアに設定したのがまず上手い。映画ファンなら誰もが『ロッキー』を連想する錆びた街で展開されるのは、現代のアメリカンドリームの物語だ。フアンチョ・エルナンゴメスが演じるボー・クルズはスペインから渡米してきたアンダードッグの若者を演じ、ストリートで磨いたスキルと時としてSNSやバズ動画を武器にアメリカ誕生の地でのしあがっていく。

 

 しかし、単なる若者のシンデレラストーリーに収まっていないのは、本作はボーをサポートするスタンリーの物語でもあるからだ。夢を壊された中年が、若者に自信の夢を託すドラマも、王道ながらアダム・サンドラーのキャリアハイと言っても過言ではない演技力でアツくさせる。ロッキーではなく、あくまでミッキーの物語であるのが本作の妙といったところか。

 

 この物語に説得力をもたらせているのは、やはりバスケ描写のリアリティとカッコよさである。アダム・サンドラー自身バスケファンとして有名*2であり、彼がレブロン・ジェームズとタッグを組んでプロデュースした本作では、肝心のバスケシーンの撮影には相当こだわりがあったはず。

 

 本作を監督したのは日本未公開作品『We the Animals』(2018)でデビューを飾った新進気鋭のジェレミア・ザガー。『We the Animals』を観たサンドラーが、あたためていた本作の企画をザガーに持って行った際、私的な映像を撮ることを得意としていたザガーは企画を引き受けるか当初迷っていたという。しかし、次第にバスケットボールをシネマティックに撮影することに興味を示して監督することにサインをしたそうだが、ザガーの挑戦は見事に成功したと言えよう。

 

 もうひとつ、本作をチャーミングにしているのは、数々のバスケ選手たちの意外な演技力の高さである。フアンチョ・エルナンゴメスが初出演作とは思えないくらい繊細な演技力を見せるのは驚いたが、ライバルとなるカーミットを演じたアンソニー・エドワーズのヒールっぷりも最高だった。その他のカメオ出演しているNBA選手たちも見事な演技力であったが、そういえば本作をプロデュースしているレブロン・ジェームズもいろんな映画でいい演技を見せている。トラッシュ・トークやファウルをもらうためのフロッピングなどが日常茶飯事の彼らにとって、演技は意外と朝飯前なのかもしれない。

 

 とにもかくもバスケ愛にも満ちていただけでなく、スポ根映画としても見応えたっぷりないい映画であった。NBAファンは観て当然損はないし、逆に映画ファンは本作がNBAやバスケへの興味の入り口になるのではないだろうか。ネトフリ映画としては珍しくオススメです!

 

*1:映画ファンには『ジョン・ウィック3』の殺し屋でお馴染みだ!

*2:余談ではあるが、サンドラーが主演した『アンカット・ダイヤモンド』もケヴィン・ガーネットが出るなど、バスケ要素のある映画であった