史上最大スケールで、史上最も無個性/『アントマン&ワスプ クアントマニア』★★☆

  MCU最新作にして『アントマン』シリーズ最新作、『アントマン&ワスプ クアントマニア』を鑑賞。監督は前2作を手がけたペイトン・リード、脚本はこれが長編デビュー作となるジェフ・ラブネス。主演のポール・ラッドエヴァンジェリン・リリーの他、
ジョナサン・メジャース、キャスリン・ニュートンビル・マーレイミシェル・ファイファー、コリー・ストール、マイケル・ダグラスらが出演。

 

 ポップコーンムービーとしては楽しかったと思う。MCUも今作で31作目、『アイアンマン』の公開から数えて早15年。それなりに蓄積したメソッドやマーケティングデータにより、「つまらなくない」レベルの作品を工場のように次々と世に送り出すマーベルは大したものである。皮肉たっぷりに書いたが、本当にそう思う。

 

 一方で、フェーズIV以降、というかより正確に言うなら『エンドゲーム』以降、「そろそろ限界が近くなったな」と新作が出る度に思う。ここ数年僕のブログを読んでいる読者には毎回同じことて読ませていて申し訳ないが、ウォッチャーやセレスティアルズ、タイムキーパーやマルチバース、そして量子世界など、スケールが大きく複雑になるほどついていけなくなり、MCUというユニバースへの興味が薄れてしまうのだ。

 

 僕は2015年に公開された『アントマン』が、同年公開された『エイジ・オブ・ウルトロン』よりも好きだった。『エイジ・オブ・ウルトロン』はスケールが大きい割にプロットが分裂しすぎていて消化しづらかった一方、『アントマン』の非常に卑近で平凡な主人公に心惹かれた。負け犬たちが人生を立て直すために巨悪と戦う、というストリーはスケールこそ小さいが、だからこそ僕は大きく共感して感動したのだ。

 

 しかし『クアントマニア』は、いよいよ遠いところに来てしまった。なんていったって、スコットたちがサンフランシスコにいたのは冒頭と最後の合計15分くらいで、あとは全部クロマキーやLEDスクリーンが撮影の量子世界が舞台なのだから。一応、スコットと娘のキャシーの間に親子愛のドラマはあるが、そんな情緒を感じさせないくらい展開が矢継ぎ早である。本作のペース配分には異常なものがあり、時折キャラクターが瞬間移動して見えるほど編集の間を削っている割には尺が2時間*1を超えている。フェーズVのヴィランであるカーンを導入するために、色々と詰め込みすぎてしまっている。

 

 ビジュアル的にも量子世界の描写が『スター・ウォーズ』に出てきそうな惑星程度のビジュアルだったのは非常に勿体無い。ミクロ世界の文化や住民の多くが地球上のそれとあまり大差ないのも工夫がない。(バーって何だよ、バーって…)

 

 『スター・ウォーズ』といえば、プリクエルのグリーンバック多用の撮影風景はミーム化されるほど嘲笑の対象だったと記憶しているが、90%CGが背景の『クアントマニア』はルーカスの技術開拓なくして存在し得なかったなぁ、などと鑑賞中に考えていた。そして、既に『ファントム・メナス』から24年、『シスの復讐』からも18年近くの歳月が経とうとしているが、プリクエルの方がずっと世界観の描き方が豊かだった。

 

 中々に辛口に書いてしまったが、冒頭に書いたように楽しい作品ではあったのは間違いない。そして本作が「楽しい」だけで終わってしまう映画のは、ストーリーもビジュアルもアクションも音楽も次のマーベル作品が出る頃には忘れている、没個性的な作品だからだろう。ただ、それは今作に限った問題ではない。

 

 

*1:前2作はそれぞれ117分と118分