今こそ『ホーンテッドマンション』(2003)を観よう!

 僕はエディ・マーフィー主演の『ホーンテッドマンション』が大好きでしてね。


 僕の実家は浦安にありまして、年パス持ちの中学生だった当時、学校が休みの時にディズニーランドに一人で行っていたものです。数あるディズニーのアトラクションの中でも「ホーンテッドマンション」は大好きで、その初実写化はもちろん映画館まで観に行きまして、ノベライズ本やDVDまで購入して隅々まで楽しみました。

 

 しかし、純粋に楽しんだ僕とは裏腹に世間での評価は辛口で、興行成績が良かったにも関わらず批評家からの評判が悪かったために続編が作られることはなく、「次の『パイレーツ・オブ・カリビアン』を!」とディズニーが目論んだはずの『ホーンテッドマンションフランチャイズは早くも暗礁に乗り上げることになります。2010年代に入り、一時ギルレモ・デル・トロが企画に参加しましたが、デル・トロのビジョンは怖すぎるとディズニーは懸念し実現に至ることはありませんでした。

 

 長らくデベロップメント・ヘルに囚われていた『ホーンテッドマンション』のリブートですが、この度ようやく脚本や企画がまとまり、実に20年ぶりに新作が公開されることとなりました。旧版への思い入れは捨てきれなかったものの、ラキース・スタンフィールドやティファニー・ハディッシュなど、僕が好きな役者も登場していたのでそれなりに期待して臨んだわけです。


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 …ですが、うーん、これがちょっとかなり微妙な出来だったと言わざるを得ません。一体何がダメだったんだろうと、家に帰って2003年版とディズニー+のドキュメンタリーシリーズ『ディズニーパークの裏側~進化し続けるアトラクション~』の「ホーンテッドマンション」回を観たんですけど、改めて2003年版は元ネタのアトラクション体験に忠実に作られた良作だったんだということがわかりました。

 

 2023年版になくて2003年版にあったもの、それは「ライド感」です。2023年版がアトラクションの映画化としてうまくいっていないのは、主人公たちがホーンテッドマンションから(制約付きではあるものの)自由に出入りができる、という点があるのは無視できません。対して2003年版は主人公一家がホーンテッドマンションへ訪れると、大雨の影響で閉じ込められてしまいます。仕方なしに気味の悪い屋敷に一泊することになったわけですが、一家は一晩でこの呪われた館で発生する怪奇現象を体験することになります。

 

 2023年版のストーリーは能動的であるのに対し、2003年版は受動的で、これはセーフティーバーを下ろされたら最後、ゲストは決してドゥームバギーから離れることができないアトラクション体験を実によく再現していると思います。

 

 また、これはアトラクションそのものの魅力にも通じる点ですが、『ディズニーパークの裏側』を観てみると、ウォルト・ディズニーは「ホーンテッドマンション」のメインデザイナーとしてマーク・デイビスとクロード・コーツに任命しました。ポップで楽しいことを好むデイビスは愉快なお化け屋敷を、真面目なコーツは恐ろしい館を目指していて二人は時折衝突していましたが、正反対の性質を持つデザイナーをあえて起用することでクリエイティブを発揮させようとするのはディズニーがよく使う手段でした。*1

 

 しかし「ホーンテッドマンション」のオープンを見ないままウォルト・ディズニーは亡くなってしまい、リーダー失った後デイビスとコーツの対立は激化してしまったそうです。二人は時にはぶつかり、時には認め合い、両側面が磨き上げられていった結果、「ホーンテッドマンション」は「愉快」と「恐怖」が両立する世界で唯一無二のお化け屋敷となりました。

 

 この「愉快」と「恐怖」の両立を忠実に再現していたのが2003年版の『ホーンテッドマンション』でした。生粋のコメディアンであるエディ・マーフィーを起用している一方で、往年の悪役俳優であるテレンス・スタンプヴィランに選び、厳かでゴシックな雰囲気を提供しています。また、納棺堂でのゾンビはリック・ベイカー御大が特殊メイクを担当していて、多くの子供達にトラウマを植え付けるくらい恐ろしいデザインでした。

 

 一方で、2023年版『ホーンテッドマンション』もこの「愉快」と「恐怖」の両立を目指しているとは思いますが、あまりうまく行っているように感じません。一つは主人公サイドに与えられた喪失のドラマがアトラクションのテーマとあまりにも無関係で、御涙頂戴のウェットなストーリーが「ホーンテッドマンション」とは馴染みません。また、デルトロの構想から引き継がれたメインヴィランであるハットボックス卿があまりにもCG然としているのも恐怖を薄れさせている一因で、2003年版は役者力とメイクなどの物理で勝負していたのも差が出てしまっているところだと思います。

 

 何より2023年版はアトラクションテーマ曲の「Grim Grinning Ghosts*2」を中々聞かせてくれない、流しても変なアレンジを加えている、というのもフラストレーションの一つでした。というか、2023年版は2003年版からなるべく違うものを作り出そうというチャレンジを随所に感じられまして、それはそれで応援したのですが、結果的に2003年版が押さえていた「アトラクションのツボ」を外さざるを得なかったのは不幸なところかもしれません。

 

 ちなみに、2003年版は公開当時批評家にこき下ろされましたが、英語版Wikipediaによると近年は再評価されてカルト人気作になっているようです。いまやハロウィンシーズンにテレビで流れる定番の映画となっており、「ハロウィン映画ベスト」特集でも選出されることがあるとか。当時からのファンとしてはようやく正当な評価が得られるようになって嬉しいですし、皆さんにも20周年のこの機会に是非鑑賞するのがオススメです!

 

 

*1:実のところ、ウォルト自身も「ホーンテッドマンション」を怖いアトラクションにしたいのか、愉快なものにしたいのか、決めあぐねているところはありました。

*2:余談ですが、この「Grim Grinning Ghosts」もアトラクション前半は怖く聞こえるのに、後半は愉快に聞こえるのはまさに「ホーンテッドマンション」の特色である「愉快」と「恐怖」を両立させた素晴らしい名曲であることに改めて気付かされました。