なんとも気まずいDCEU最終作/『アクアマン/失われた王国』★★☆

 10年続いたDCEUの最終作『アクアマン/失われた王国』を鑑賞。監督は前作に引き続きジェームズ・ワン、脚本も近年ワン作品でのタッグでお馴染みのデヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリックが執筆。ジェイソン・モモアを主演に、ジェイソン・モモアパトリック・ウィルソンアンバー・ハード、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、ランドール・パーク、ドルフ・ラングレン、テムエラ・モリソン、ニコール・キッドマンらが脇を固める。

 昨年アメリカで公開され、その評判の悪さが先に日本に入ってきている本作だが、僕はそこまで悪く言われるような作品ではなかったと思う。アイキャッチーで楽しく、難しいことは考えずに見れる*1

 

 ただ、確かに没個性な作品ではあり、10年前に「MCUに続け!」と息巻いて始まったDCEUの最終作が「悪くない」程度の映画なのはなんとも気まずい*2。改めてここで、DCEU最初の映画である『マン・オブ・スティール』の画と最終作である本作の画を比べよう。全く同じ映画シリーズとは思えない!


 そう、本作は観客に勝手に制作裏事情を察してしまわせる全編気まずい映画なのだ。もうDCEU作品は作られないため、続編に広がる伏線などはなく、なるべく脚本を複雑化させないような努力を感じさせる。ソー×ロキよろしくアーサーとオームの兄弟バディムービーとなっているが、オームにはロキのように騙してきそうなトリックスターの気質はなく、ただただ本作で話を終わらせるために大人しくしていて、アーサーも展開も裏切らない悪い意味での安心感がある。

 

 ただでさえ気まずいのに、余計なジョークが更に気まずさを与える。元々本シリーズはプロットからして『マイティ・ジョー』と比較されがちではあるが、開き直ってかそれを引用したメタ的なギャグを放ってくるのは感心しない。また、所々「タイカ・ワイティティ」イズムを感じさせるような緩いギャグがあるのだが、向き不向きがあるので競合他作品のモノマネをする必要はないじゃないか。事実、前作でも光っていたジェームズ・ワン印のホラー演出は本作でも良かったので、得意分野に集中させてあげれば良かったのに、スタジオにタイカ・ワイティティっぽいギャグを要求されたと妄想すると可哀想に思える。

 

 更に気まずさを加速させるのは、メラ(アンバー・ハード)の存在感の薄さだ。前作であれだけ活躍していたヒロインは途中で負傷するなどいいところがあまりなく、スクリーンタイムがあからさまに削られているが、この背景にあったであろうジョニー・デップとの係争を否が応でも連想してしまう。

 

 ただ、惜しいところもある。例えば地球温暖化をうまくテーマに組み込んでおり、アーサーの子供も出てくるので、文明の発展と営利のために自然を破壊した現世代がいかに未来世代に落とし前をつけるか?というプロットに落とし込められたはずなのに、やはり本作で簡潔に終わらせるためにそこまで深い話までは持ち込まない。

 

 本作はこうした制作側の様々な事情を考えさせてしまう気まずさに満ちている。が、DCEUに限らず、MCUでも『スター・ウォーズ』でも何でも最近は広く知れ渡ったスキャンダルや制作裏事情がそのまま映画内容に反映されてしまうのが現代ハリウッド映画の病理なのかもしれない。せめてDCUは気持ちよく見れる再スタートを切って欲しいが…。とりあえず、DCEUを作ってくれてありがとう、お疲れ様でした。

 

 

*1:ザック・スナイダーがこねくり回したDCEUを「難しく考えずに」観れてしまうことが何よりも皮肉ではあるけれど

*2:ネタバレになるけど、DCEUの最後のカットはパトリック・ウィルソンがゴキブリをチーズバーガーに挟んで食ってるカットだ。打ち切り漫画もビックリ!