観客の世界も巻き込んだマルチバース/『ザ・フラッシュ』★★☆

 都内上映最終日に『ザ・フラッシュ』を鑑賞。監督は『IT-イット-』2部作のアンディ・ムスキエティ、脚本に『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』のクリスティーナ・ホドソン。主演はこれまでのDCEUでフラッシュを演じてきたエズラ・ミラー、共演にサッシャ・カジェ、マイケル・シャノンら、そしてマイケル・キートンが久しぶりにバットマンを演じる。

※公開から時間が経っているのでネタバレしています。

 まず先に言っておくが、僕は本作を面白く観れた。全編楽しいユーモアに溢れていて、スピーディーなアクションも見せ方が多彩で、流行りのマルチバースとタイムトラベルを導入してSF的な大風呂敷を広げつつ、エモーショナルなラストもグッときた。が、本作が楽しければ楽しいほど喉に引っかかった違和感を覚えてしまうが、それは本作がワーナーとDCの裏事情も巻き込んだメタ的な作品になってしまったからだろう。

 

 これはMCUがやりがちな過剰接待とも共通するが、本作にはとにかくファンサービスが多い。一時はバットマン役から引退と伝え聞いていたはずのベン・アフレックバットマンが冒頭で観れたことも嬉しく、想定していなかったワンダーウーマンまで参戦し、まるで『ジャスティス・リーグ』の続編を見ているよう。過去のDC映画の引用も抜かりなく、マイケル・キートンバットマンが登場するのをはじめとして、ジョージ・クルーニーも出てくるのは驚いたし、なんだったら全てのマルチバースが衝突するクライマックスでジョージ・リーヴスやクリストファー・リーブスのスーパーマンが出てくるのも驚いたし、没になった幻のニコラス・ケイジ=スーパーマンが登場したのは度肝を抜いた。

 

 そしてこうしたファンサービスにより映画の「外」の世界に意識が向いてしまった結果、やはり脳裏に浮かんでしまうのは昨今のワーナー=DCのゴタゴタである。ジェームズ・ガン体制になって以降、DCEUはDCUとしてリセットされることが報じられているので、これまでDC作品を追ってきたファンとしては本作をどのような態度で臨んでいいか難しかっただろう。

 

 先述した『ジャスティス・リーグ』の続編に見える冒頭が皮肉になってしまっており、あの冒頭シークエンスの出来が良ければ良いほど、このメンツでの『ジャスティス・リーグ』が見れない悔しさの方が優ってしまうのだ。せめて『ザ・フラッシュ』のような痛快作があと2、3本早く公開されていたらDCEUの未来も違っていたのかもしれない。そういう意味では本作は「遅すぎた」。

 

 最近はSNSの隆盛もあり、画だけでなくて映画にまつわるニュースもセットになって映画体験となっているので困ったものだ。もう映画を映画だけで純粋に楽しめる時代は終わってしまったのか。昨今の映画界は観客もメタ的に巻き込んだマルチバースだな。