風刺コントを撮っている人間として、今のイスラエルのガザ侵攻ほどやるせないものはない。コメディの力を信じているものとして、イスラエルの虐殺を批判するために風刺コントを撮りたいが、コントにするにはあまりにも酷い惨状を広がっている。「2023年を1年間昏睡してた人に説明する」というコントでちょっと触れるのが精一杯だったが、たった数秒触れただけでインスタグラムではイスラエルのプロパガンダを信じる人間のコメントで荒れた。
ウクライナ戦争のコントを撮った時も大変頭を悩ませたが、現在進行形で進むイスラエルのガザ侵攻は更に困難を極める。風刺コント師としての自分の能力の限界に途方に暮れていたら、YouTubeでこのテーマでスタンダップを披露しているインドのコメディアン ダニエル・フェルナンデスを目撃して衝撃を受けた。
最初に「皆どっちを応援してる?」と観客に問いかけ、誰かが「イスラエルかパキスタンか?」と聞くと「いやいや、インドかパキスタンかの話だよ!」と爆笑をかっさらう。もちろん、観客の多くはパレスティナ寄りだったが、中にはイスラエル寄りの人間もいる。ダニエルは優しくなんでイスラエルを支持するかと聞くと、観客は「だって先に攻撃してきたのはハマスだから」と答えると。すると返す刀で「じゃあ君は今シーズンからしかこのドラマを見てないね!」と返して観客に拍手喝采させるのには鳥肌がたった。「俺も『ゲーム・オブ・スローンズ』途中からしか見てないんだけど、このジョフリー王*1ってやつはいいやつだと思ったな!」笑えると同時に、すごく飲み込みやすい例だし、啓蒙にも役立っている素晴らしいジョークだ。
他にもイスラエルを批判するネタをしているユダヤ系コメディアンの動画を見つけた。彼は先ほどのダニエル・フェルナンデスほど踏み込んでいるわけではないが、この問題に触れることの難しさ自体をジョークにしている。
「トランス女性がスポーツをすることについて議論していた頃が懐かしいよ、あの頃の方がよっぽど飲み込みやすかった!」「俺が通う床屋はユダヤ系なんだけど、彼がいつも俺の髭を剃っている時に、俺がこの問題についてどう思うか聞いてくるんだ。で、気づいたんだけど、彼のカミソリが俺の喉元に近い時、俺はイスラエル寄りになっているんだ」
このジョークをできる彼の肝っ玉には敬服するし、この動画のコメント欄には「僕はイスラエル人だけど、このジョークに笑った。僕たちはただ平和が欲しいだけなのに、権力を欲したいだけの頑固な統治者たちには吐き気がする。いつかパレスティナの隣人たちと人生について笑い合える日が来て欲しい」と残した人もいる。
彼らはジョークにより、人々にパレスティナ問題を考えさせ、弱者に寄り添わせることに成功している。これがまさしく僕が『スケッチブック/SKITBOOK』を始めた理由であり、目指している境地である。コメディは世界や社会を変えることができると、僕は本気で思っている。
*1:『GotT』のメインの悪役の一人