おじさんたちに挟まれた #私の一人暮らし

 はてなブログが面白そうなお題キャンペーンをやっているので「#私の一人暮らし」について書こう。

 

 昨年度から留学先の大学を卒業し、人より遅れて晴れて社会人になった僕はNYで一人暮らしをしている。と言っておいていきなり修正するが、正確には一人暮らしではない。アメリカではルームシェアは一般的で、特に賃貸料が高いNYでは狭いアパートに2〜4人くらい暮らしているのは珍しくない。

 

 例に漏れず僕もネットの掲示板で住居を探していて見つけたクイーンズ地区のアパートの地下室で、フィリピン人のおじさんと日本人のおじさんと暮らしている。二人とも50代後半の独身のおじさんだ。

 

 ルームシェアと言っても一人一人に部屋は割り当てられていて、あまり顔をあわせる機会は少ない。しかしキッチン・風呂・便所は共有なので、腹が減ったりトイレに行きたくなったら二人に遭遇することもある。

 

 フィリピン人のおじさんはアパート管理を手伝っていて、地下室のマネージャー的立ち位置にいる。共同生活上の注意をしてくる時もあるが、いつもニコニコしていて癒される。僕が仕事帰りにキッチンで遭遇すると「お酒を飲もうよ」なんてワインやウィスキーをご馳走してくれるし、フィリピン流のマグロステーキなんかも作ってくれる。前に住んでいて日本人の女の子が無愛想だったそうで、僕が会話してくれるのが嬉しいらしい。

 

 曲者なのは日本人のおじさんで、彼は元料理人だそうだ。他にも不動産なんかも持っていて「死んでも金が使いきれない」などと豪語しているが、じゃあなんで僕なんかと一緒に家賃8万の地下室で暮らしているのか皆目見当もつかない。また初めて会った時の挨拶で「俺は毎晩若い女の子とマンハッタンで遊んでるからあんま家にいない」と言っていたが、正直チビ・デブ・ハゲで清潔感もあまりないのでどうやって僕と同年代の女の子を口説いているのか分からない。クッソ失礼なことを書いたが、料理の腕は本物で彼も多めにご飯を作っては僕のために保存しておいてくれる。

 

 二人とも子供がいないためか、基本的に二人は僕にはとても優しい。ご飯や生活用品をシェアしてくれるのでとても助かる。ただ、二人の仲はとても悪い。というか、日本人のおじさんが一方的にフィリピン人のおじさんを嫌っているのだ。

 

 例えばキッチンで僕が料理している時にフィリピン人のおじさんが挨拶にやってくる。談笑し終わってフィリピン人のおじさんが部屋に帰ったあとに日本人のおじさんがヌッと部屋から出てきて「あのおっさん帰ったか」などとほぼ自分と同い年の人間の陰口を言う。

 

 「あのおっさん料理してる時に換気扇つけろだとかドア開けろだとかうるせえんだよなぁ」なんて言うから「まあ、彼も管理人なんでしょうがないんじゃないですかね」と擁護すると「管理人たってそんなに偉そうにすることねえのによぉ」とゴモゴモ言う。挙げ句の果てには「フィリピン人のくせに気が強いのはきっとここが母国じゃねぇからだな」などと訳のわからない差別発言までするので呆れてしまう。

 

 ただ、このおじさんには嫌悪よりも憐れみを感じてしまう。50代だけど家族もおらず独身で、もうウン10年と異国の地に住み着いている。プライドだけは一丁前に高く武勇伝を語るが、一緒に暮らしていると実態は少しだけ想像できる。そんな彼の孤独もわかっているからフィリピン人のおじさんはあまり日本人のおじさんの悪口は言わない。代わりにいつも「彼には子供がいないから君が可愛くてしょうがないんだよ」と言う。また独身で異国の地で一人暮らしをしているこのフィリピン人のおじさんには恐らく日本人のおじさんの心情がわかるのだろう。

 

 しかし、こんなことを淡々と書いている僕の立ち位置はなんだろうか。まるでちょっとしたラブコメ漫画のヒロインみたいじゃないか。僕を取り合ってるせいで二人の仲は悪いのだろうか。もう、私のために喧嘩なんてやめてよ!という、気持ちの悪い自意識過剰な一人暮らしを送っている。

 

新装版 ラブひな(1) (KCデラックス 週刊少年マガジン)

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