ポッドレースはなぜ20年以上経っても色褪せないか?

 『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』が公開当時賛否両論の渦を巻いたことは皆さんご存知のところかと思いますが、ポッドレースシーンの素晴らしさは誰も否定できないのではないでしょうか。

 

 これだけCGに慣れた現代人の目で見ても全く色褪せない映像表現だと思いますが、じゃあなぜ色褪せないのか?ということをVFXアーティストの方が説明しているこちらの動画が面白かったですね。


 元レーサーのルーカスがポッドレースでとにかく表現したかったのはスピード感です。しかし、伝統的な撮影手法でスピード感をブレずに捉えられる方法はありませんでした。(当然、撮影対象のポッドレーサーは実在しませんし。)

 

 最初に採用された方法はILMお得意のミニチュア撮影です。しかし、ミニチュア撮影は洞窟などの閉鎖的な空間では効果的なものの、地平線がどこまでも見れる屋外の砂漠空間をミニチュアで再現するわけにはいけません。

 

 そこで登場するのがCG、というのは簡単ですが、90年代のコンピューターで風景を全て作り出すのはは大変な途方も無い作業です。特に、レーサーが次々に通過する遮蔽物を限りなく描き続け、コンピューターで生成された照明を当て続ける作業はほぼ不可能だったと言えるでしょう。(実は同じ理由から、『ファントム・メナス』でフルCGの背景が使用されているのは限定的な空間やセットのみです。)

 

 そこでVFXアーティストたちが利用したのはまさにポッドレースの「スピード感」です。CGで地形を作り出しますが、ディテールを描けば描くほど重くなるので、非常にシンプルな状態にとどめます。実はポッドレース中の地面はほぼ「平坦」にできているのですが、ポッドレース自体がとてつもないスピードで行われているので、ほとんど分かりません。(なおかつ、もちろん激しいポッドレースが繰り広げられている中で地面に関心を抱く観客はいません。)CGで地形の凹凸表現は最小限にとどめ、描きこんだイメージを貼り付けることで、「リアルさ」を表現しています。

 

 ここで活躍したのが「フォトグラメントリー」という技術で、被写体をほぼ全ての方角から撮影し、デジタル画像に解析して立体的なデータを作り出す技術です。モス・エスパ・グランド・アリーナの独特な地形を精巧なミニチュアで作り、それをデジタルデータとして取り込み、シンプルに作ったCG地形の上に貼り付けることで当時のマシンパワーであれだけリアルなポッドレースを再現した、ということです。

 

 この動画を見て思い出したのは、マジックで使われている視線誘導ですね。マジシャンは観客の視線をうまくミスディレクションすることで、マジックを信じ込ませているのですが、『ファントム・メナス』でもシーンのキモである「ポッドレース」という苛烈なレースに観客の意識を向かせる事で、CGの多少の粗を気付きにくくさせ、マジックを信じ込ませているんですね。

 

 インダストリアル・ライト&マジックという社名通り、観客にマジックをかけることに精通した会社らしい素晴らしい仕事でした。なお、映画とマジックはそもそも切っては切れない縁がありますが、昨今の大作映画がVFXだらけであることが批判されているのは、技術の向上でなんでも描けることにあぐらを描いて、マジックの見せ方を怠っているのが原因なのかもしれませんね。