贅沢にもトムに慣れてしまった/『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』★★☆

 『ミッション:インポッシブル』シリーズ最新作にしてシリーズ初の二部作『デッドレコニング PART ONE』をIMAXレーザーにて鑑賞。監督・脚本は前2作に引き続いてクリストファー・マッカリー、音楽も同様にローン・バルフが再登板。シリーズの看板トム・クルーズが自らプロデュースを務めるほか、ヴィング・レイムスサイモン・ペッグレベッカ・ファーガソンヴァネッサ・カービーらが共演、新顔としてヘイリー・アトウェルが登場。

 

 『m:i』シリーズに関わらず、とりあえず新作が公開されたら見に行っておけば間違いなしでお馴染みのトム・クルーズ最新作だ。VFXやAIの発展で益々画一的で無個性なブロックバスターが増えれば増えるほど、トムはそれに反発するが如く生身でのスタントにこだわり、クリス・マッカリーが盛り上げるサスペンス演出も相まってとてつもない臨場感を与えてくれる。

 

 「字幕 戸田奈津子*1」繋がりもあってついつい連想してしまうのだが、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』と『デッドレコニング PART ONE』には双方とも列車上でのアクションを行なっているものの、その質は雲泥の差だ。若返りVFXの粗を隠すためか見辛い夜の場面で、さらにアクションの手数が『最後の聖戦』の冒頭3分間の列車アクションよりも少なかった『運命のダイヤル』と*2、皮肉にも変装マスクもなく観てるこちらの胃がキリキリしてくるような肉弾戦を白昼堂々と行い、一難去っても次々とクライシスを投与してくる『デッドレコニング PART ONE』ではさらさら勝負にならない。

 

 僕が本作で特に面白かったのは、第二幕イタリア・ローマでのカーアクションで、シリーズでも散々カーアクションは観てきたので今更何が出てきても驚かないと思っていたが、まだこんな手札があったのかと感心してしまった。劇場至上主義のクリス・マッカリーとトム・クルーズは映画館に足を運ぶお客さんを楽しませるためにアクションの見せ方を徹底的にこだわる。

 

 『フォールアウト』同様、本作もまずはマッカリーとクルーズが撮りたいアクションを優先したようで、脚本はプリプロ段階ではおおまかな土台のみ作り、撮影中にどんどん変えて行ったそうだ。しかし、その割には鑑賞中のプロットへのノイズは少なく、アクションが次から次へと展開されていいくうちになんとなく理解できてしまう*3。むしろ『フォールアウト』の方が明らかに脚本やキャラクターの欠陥があり、『デッドレコニング PART ONE』はどちらかというと丁寧に作られている印象がある。

 

 が、これもまた不思議なもので、振り返ってみると僕は堅実な『デッドレコニング PART ONE』よりも「クレイジーさ」が上回っていた『フォールアウト』のほうが大分魅力的で好みだった。『デッドレコニング』のアクションも言わずもがな凄いのだが、『フォールアウト』のほうがアクションシークエンスごとのインテンシティが高く、スタントが苛烈すぎてプロットすら破壊してしまった、というのが正確なところだろう。

 

 さらに『デッドレコニング』に関しては、事前に予告やメイキング映像などで散々命懸けのスタントを見てしまっていたがために、いざ本編でみると驚きよりも「トムならそりゃね」という安定感すら覚えてしまう*4。だけど、これは自分で書いていてもおかしいと思うけど、トムは明らかに前人未踏の領域まで踏み込んでいるはずなのだ。なのに無いものねだりをするようになってしまうなんて、僕は贅沢にもトムに慣れすぎてしまった。とりあえず『PART TWO』も楽しみにしてます!

 

 

 

*1:今回の戸田奈津子も相変わらずのナッチ語が発揮されていて、シリーズ定番の"Should you choose to accept it...(もし君が指令を承諾するなら)“というセリフを踏まえた上でイーサンが”I can’t accept that.”と返答するセリフを「それは違う」と訳していたのはズッコケてしまったし、今回のキーとなるAIである"The Entity"を"それ"と訳す肝の座りようには呆れてしまう。ハリソン・フォードトム・クルーズに負けず劣らず、86歳になってもナッチはご健在なのだなぁ…

*2:ファンには申し訳ないが、今年は『運命のダイヤル』の悪口を言ってるだけで年が越せる

*3:でも本作であるキャラクターが辿った結末だけは納得がいかない悲しい…

*4:この辺も『フォールアウト』の上手かったところで、PR映像で見てきた映像よりも一歩先の驚きが常にあったと思う