内面化された抑圧

 2014年公開のタランティーノ監督作品『ジャンゴ 繋がれざるもの』が大好きなのだが、あの映画の発明は黒人差別をする黒人奴隷スティーブンというグロテスクな構造を持つキャラクターだ。

 

 スティーブンのように、差別や社会的圧力による影響で、被害者自身がその差別的な信念や行動を受け入れてしまう現象を「内面化された抑圧(Internal Oppression)」と呼ぶ。例えば、男社会で苦しんできたきたはずなのに女性の社会進出を嘲笑するような言動をとる女性政治家、外国籍を持ちながら日本国内に住む外国人たちへの差別発言を積極的に行うタレントなど、「内面化された抑圧」の例は枚挙にいとまがない。

 

 そんな何年も前の映画のキャラクターのことを、昨今の木村拓哉を見ながらふと思い出したのである。

 今でも漫才やコントでネタにされるくらい、「キムタク」はイケメンの絶対的アイコンで圧倒的スターであり、僕も子供の時に憧れていた存在ではあった。しかし最近ジャニー喜多川ジャニーズ事務所の一連の性加害問題で会見を開くたびに、キムタクは被害者側の気持ちを無視するような投稿をSNSでおこなってきた。

 

 振り返れば、SMAP騒動の時もキムタクはジャニーズに残る選択をしたが、キムタクはジャニーズ事務所に苦しめられてきた同胞たちよりも、ジャニーズとしてのアイデンティティや自尊心に重きを置いているようだ。キムタクが性加害の被害に遭っていたかは知る由もないが、井ノ原快彦氏が最初の会見で「(性加害の)うわさはあった。触れてはいけない空気があった」と語っていたように、ジャニー氏の裏の顔を知らないわけがないのだ。

 

 別に今でも子供の時みたいにキムタクを憧憬の眼差しで見ているわけではない。でも最近、子供の頃や学生時代に憧れていた人たちが次々に軽蔑する行動をとっていくの、自分の中で作っていたヒーロー像が壊されていくようで辛いな、とは思う。