いい監督はアクションではなくエモーションを伝える

 ちょっと今年前半の暇っぷりが嘘かのように仕事が重なってまして、フリーランスとしてはありがたい限りなんですが、あまりにも忙しすぎます。予定帳で今年残りの日数を見てるともう年明けまですぐそこと知って驚愕しました。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

 

 さてさて、今は海外の短編映画のADをやらせてもらっているんですけど、現在準備期間でこの間役者さんのリハーサルにお邪魔させてもらったのです。リハーサルなのに役者さんは号泣したりして鬼気迫る演技で驚いたのですが、リハーサルの合間に監督が「このシーンで表現したい気持ちは、例えば私が先日街を歩いていた時に…」と感情を説明するのですが、「このセリフはこういう風に言ってくれ」とか「こういう風に動いてくれ」などという台本に基づいた具体的なアクションの指示がなかったのが印象深かったんですね。

 

 昼休憩中に監督にその意図を聞いたら、「いい演出家というのは、正しいアクションではなく、正しいエモーションを伝えるのが仕事だ。そしてそのエモーションを正しく理解してもらえたら、どうアクションするかは俳優に自由に作ってもらう。それが共同作業というものだよ」と教えてくれて、とても目から鱗がおちる感覚になりました。

 

 というのも、僕が普段コントや映画を作る時は、一応頭の中で作ったイメージはあるので、それとちょっとでも動きが外れてしまうとついつい修正してしまうのですが、確かにこれでは監督の独りよがりの演出で、役者さん自身の創造的見地をあまり信頼していないな、と思いました。で、その翌日に早速『SKITBOOK』の新作コントを撮ったのですが、役者さんの演技が「自分の求めているものとちょっと違うな」と思った時に試しに「ここは例えば日常生活で言えば、こういう感情ですよ」と伝えたら、その次のテイクではお互い腑に落ちた素晴らしい演技になりました。

 

 映画は監督一人が作っていると思われがちですが、やはりスタッフやキャストの能力を出し合って積み上げていく総合芸術であると再確認させてくれて、ととても勉強になった演出論でした。*1

 

 

*1:これは知人の役者から昔聞いた話ですが、例えば予算がなくてスケジュールもパツパツのテレビドラマの現場では、役者さんが自分の解釈した演技やセリフを言おうとすると、演出家から「セリフを読めばいいから!」と怒られるそうです。これをもって一概に日本と海外の演出論の違いとは言えないですが、今回海外の監督に教えてもらえたのはとてもいい経験にはなりました。