ファンタスティックなのはラスト30分だけ!/『ファンタスティック・フォー』★☆☆

 リブート版『ファンタスティック・フォー』を鑑賞。監督は『クロニクル』のジョシュ・トランク、ファンタスティック ・フォーを演じるのは『セッション*1』のマイルズ・テラー、ルーニー・マーラの妹 ケイト・マーラ、『クロニクル』のマイケル・B・ジョーダン、『リトルダンサー』のジェイミー・ベル。Dr.ドゥームを演じるトビー・ケベル、レグ・E・キャシーが助演を務める。

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  時代の先を行く天才科学青年リード・リチャーズ(マイルズ・テラー)は親友のベン・グリム(ジェイミー・ベル)と共に科学コンテストに出展し、幼少期より取り組んでいたテレポーテーション装置を披露するが審査員に理解されず失格となってしまう。しかし、彼らの発明はフランクリン・ストーム博士(レグ・E・キャシー)の目に止まり、リードは彼の研究所に雇われる。フランクリン・ストーム博士もまたテレポーテーションについての研究をしており、「プラネット・ゼロ」と呼ばれる平行世界への瞬間移動を試みていたのであった。フランクリン・ストーム博士の呼びかけの元リードの他に娘のスー・ストーム(ケイト・マーラ)、反抗的な息子のジョニー・ストーム(マイケル・B・ジョーダン)、そして弟子のヴィクター・ヴォン・ドゥーム(トビー・ケベル)が招集され、日々テレポーテーション装置の研究に勤しむであった。

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 製作段階からジョシュ・トランク監督とスタジオやプロデューサーとの間にトラブルの噂が絶えず、いざ公開されるとRotten Tomatoesで8%、IMDbでも3.9点と炎上に近い叩かれ方をして、興行的にも2週目の『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』に完敗という、近年のブロックバスター映画の中でも稀に見る転げっぷりを見せている本作だが、本作の問題点は大変わかりやすい。というのも、今回のファンタスティック・フォーは全くヒーロー活動をしないのである。

 

 前シリーズと違ってリード・リチャーズの少年時代から始まり、科学コンテストの場面に移り、ストーム教授に認められ研究室に移り、そんでスー、ビクター、ジョニーなどのバックグラウンドが説明され、ひたすらテレポーテーション装置の研究を行い、装置が完成して事故を起こすまで(体感時間で)約1時間

 

 そして事故が起きて超能力を手に入れたと思ったらなんか1年後とかテロップが出てグダグダやってて、人助けはおろかその1年間ずっとまた政府のために研究してて、なんやかんやでDr.ドゥームが登場してクライマックスになるのは上映時間残り30分。僕の留学先はド田舎で一番近くの映画館までチャリを漕いで30分であり、しかも道も舗装されていなくて危ない。比喩でもなくいつも死ぬ思いで映画館まで通ってるのに、まさかひたすら若者たちが実験する姿を見せられようとは!

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 同じリブート物である『バットマン ビギンズ』もブルース・ウェインバットマンになるのに1時間くらいかかるその展開の遅さが批判されていた。しかし、僕がノーラン信者だから擁護するってわけでもないが、『バットマン ビギンズ』の前半はまだ忍者修行のシーンなどでアクション的な見せ場もあり、バットマンになった以降もきちんとヒーローらしく悪者退治もするし、子供と触れ合う場面があったりクライマックスも阿鼻叫喚のゴッサムを救うために奔走するので、あれはあれで立派なスーパーヒーロー映画だったと言える。

 

 しかし『ファンタスティック・フォー』の舞台はほぼ8割がた淡々とした暗く青みがかった研究所で画的に代わり映えもせず、そしてこれが最大の問題点とも言えるが、救うべき市民の姿はほとんど写らない。クライマックスは無理やり地球の危機と関連づけているが、結局はあからさまにグリーンバックで合成したような「プラネット・ゼロ」で戦っているだけ*2なので果てしなくどうでもよくなる。Dr.ドゥームの悪役としての動機もこじつけで、そのために主人公たちとの因果*3もCGで描くスケールと比べてミニマルな物で全然釣り合っていない。ヒーロー映画としての快感を徹底的に省いてしまっている。

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↑ちなみに予告編にあったこのカットは本編にない。

 

 思うに、ジョシュ・トランクは『ファンタスティック・フォー』を『クロニクル』に続く、切ない青春SF映画にしたかったのだろう。ところが映画内で散々科学について言及している割には後半では科学はほとんど関係なくなってしまっているし、クライマックスの決着のつけ方には全く論理もクソもない。『スター・トレック』『ベイマックス』『トゥモローランド』など、優秀な科学映画には科学について明るいビジョンがあるが、例えば子供達が『ファンタスティック・フォー』で陰惨とした研究室でひたすら研究している科学者達を見て、果たして科学に対して憧れを持つか甚だ疑問である。

 

 前の『ファンタスティック・フォー』シリーズは映画ファンからの評価が低く、僕も好きなシリーズではなかったが、リブート版『ファンタスティック・フォー』と比べるとあちらの方が遥かにアメコミ映画としても科学を扱った映画としても正しかったと上方修正せざるを得ない。冒頭30分くらいで事故を起こし、人命救助のシーンも入れ、一人だけ醜い姿になったザ・シングの悲哀もあり、Dr.ドゥームとも対比し、リードとスーの恋愛も描きつつ、ジョニーのユーモアもあって画もカラフルで…。前半に伏線を配置してから「科学的に」Dr.ドゥームをチームワークで倒すクライマックスもいい。クリストファー・ノーランはリアル志向ゆえに彼の『ダークナイト』三部作や彼が製作した『マン・オブ・スティール』はアメコミファンの議論を呼んだが、これらのノーラン・アメコミ作品に対するすべての批判がその10倍の規模で『ファンタスティック・フォー』に当てはまる。リアルでシリアスな方向に過剰に進んでいった結果スーパーヒーロー映画としてはえらくつまらない作品になってしまった。

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↑戦闘機から降下するザ・シングとかいう超燃えそうなこのカットも本編にない。

 

 しかし、ただの一本の映画として観ると実はそこまで酷い映画でもない。ノーランが大好きなくらいだから本作の雰囲気もちょっと好きだったりもする。だから批評家はともかくとしてIMDbユーザーの荒れっぷりにはどこか疑問を抱いてしまうし、原作ファンからの理不尽な叩かれようや監督の本作をめぐるツイートで炎上という流れからは『進撃の巨人』を思い起こさずにはいられず、この両作品が同時期に公開されるのはどこか不思議な縁みたいなものを感じずにはいられない。しかしジョシュ・トランクは過去に大傑作『クロニクル』を撮ったという事実は紛れもないもので、2013年度のベストテンに『クロニクル』を入れた身*4としては他者がなんと言おうと応援していきたい所存だ。……ただハリウッドで干されないかが心配なんだよね…。


映画「ファンタスティック・フォー」予告編1(150秒) - YouTube

*1:

taiyaki.hatenadiary.com

*2:大体、大都市で戦ってる感じのポスタービジュアルはなんなんだよ!

*3:というか僕は無理やり実験に付き合わされて異形のものに変身させられたベンにこそヴィランとしての素質があると思うが、そこらへんの繊細な問題についての描き方もテキトーで…。

*4:

taiyaki.hatenadiary.com